美術館堆肥化宣言
一、美術館とは事後的に見出された直接行動にひも付く腐植の一形態である。
二、美術館もまた乱調にあり。その渦中に“生の下支え構造(リビング・インフラ)”を現象せよ!
コレクション展内特別展示として、2021-23年の美術館アートプロジェクト事業「美術館堆肥化計画」成果を総合的に紹介する展覧会「美術館堆肥化宣言」を開催します。
県立美術館が地域の文化を「肥やす」べく、アーティストらとの協働のもと県内各地の魅力を発掘・発信した「美術館堆肥化計画」。その成果を7つの宣言(章)をもとに示す本展ではアーティストに加え、事業の中で出会った福祉や地域振興、博物館構想といった自分なりのやり方で地域を耕す人びとを「堆肥者」として一律に捉え、彼らの実践の「いま」を館コレクションや関連企画を交えて紹介します。本来的に美術館をはみ出す堆肥者の集まった本展は、全てを芸術に紐づける美術館を、人が他者とのつながりのもと現実世界を生き抜く力を養う資本に満ちた空間として、地域の中でフェアに使いなおすことを試みるものです。
混迷の現在にあって美術館もまた乱調にあり。すべての過去を再生し得るこの場所で、頼りとすべきはミミズの営み。雌雄の別なく地にみち、己の糞で土を肥やす彼らの生を、我らのそれになじませよ。本展でもって生の回復と予祝の力場と化した美術館は、ここに自らの「生の下支え構造(リビング・インフラ)」への転化・拡充を宣言する。やるなら今しかねぇ。軒を借りて母屋をのっとれ。Just do it now!
お知らせ
追肥「NUMANの恩がえし ー0円ショップ in 青森県立美術館」のお知らせ
追肥「テラヨンカーズとミニ四駆をつくって走らせよう!」(6月開催分)のお知らせ
追肥「糞土師フン談+映画『うんこと死体の復権』先行上映会」のお知らせ
開催概要
会 期
2024年2月10日(土)-6月23日(日)
休館日
毎月第2・第4月曜(この日が祝日の場合はその翌日)および2月26-28日、3月18-19日、5月14-15日
会 場
青森県立美術館展示室N,O,P,Q,M,L,J,I,Hほか
堆肥者
An Art User Conference、「ありのままの表現展」に集まった作家たち、伊沢正名(糞土師)、Itazura NUMAN(縫いもの集団)、小田香(フィルムメーカー/アーティスト)、偽石器、竹内正一(開拓農家)、田附勝(写真家)、テラヨンカーズ(子どもの休日応援団体)、外崎令子(農婦)、庭田植え(東通村大利に伝わる予祝儀礼)、畑井新喜司(動物学者)、弘前大学教育学部有志、三上剛太郎(医師)、蓑虫山人(旅人/六十六庵主)、ミミズ etc.
(コレクションより)
青木淳(「動線体」構造)、荒川修作、大小島真木+アグロス・アートプロジェクト(寄託作品)、工藤哲巳、斎藤義重
※本展ではアーティストも地域の肥やし手も、一律に「堆肥者」と呼称します。
観覧料
(1)[4/12まで] 一般510(410)円、高大生300(240)円、小中学生100(80)円
(2)[4/13から]一般900(700)円、高大生500(400)円、小中学生100(80)円
※4/13以降はAOMORI GOKAN アートフェス 2024との連動にともない料金が変更となります
※( )は20名以上の団体料金および4/13以降AOMORI GOKAN アートフェス 2024 公式ガイドブック特典「スタンプラリー&パスポート」提示割引料金
※ 心身に障がいのある方と付添者1名は無料
主 催
青森県立美術館
協 力
青森県立郷土館、社会福祉法人あーるど、曹洞宗長福寺、中泊町博物館、日本赤十字社青森県支部、弘前大学北日本考古学研究センター、六ヶ所村立郷土館
展示内容
宣言1 蓑虫山人:収集から共有へ
全国を旅した蓑虫山人(1836-1900)は県内滞在中に様々な人と交流し古器珍物に親しみ、それらを集め展示する施設「陸奥庵」を構想した、早い時代の美術館の実践者でした。
本章では「美術館堆肥化計画2022」で得られた蓑虫山人の知見を応用し、彼が県下に残した作品とそこに描かれ現在は弘前大学北日本考古学研究センターで保管される考古遺物を併せて紹介。蓑虫山人の志向をもとに収集から共有対象へと作品の継承保存の仕方をシフトさせ、地域と生きる知恵を養う古く新しい美術館の姿を提示します。
堆肥者 蓑虫山人
蓑虫山人《土偶図》 *「美術館堆肥化計画2022」展示風景@三沢市先人記念館
宣言2 漏らしは肥やし
日本社会を支えてきた米。漢字で「米+異なる」と書く糞。米から排出され、生物と微生物との間を循環し、生を支える糞に作品をかさねることは、社会の中で共に活きて働く堆肥としてのアートを指し示し、堆肥的な存在へと私たちのあり方を立ち上げなおすことでもあります。
本章では70年代の工藤哲巳の「社会評論の模型」とともに「美術館堆肥化計画2021」にWS講師として参加した伊沢正名が半世紀続ける野糞の写真、美術館でのコメ作り体験から人・社会・自然の関係を問うように集団制作された作品《明日の収穫》を本展序章として紹介します。
堆肥者 伊沢正名、大小島真木+アグロス・アートプロジェクト、工藤哲巳
大小島真木+アグロス・アートプロジェクト《明日の収穫》(2017-18) 青森県立美術館寄託作品
「夏場の二ヶ月後、ウンコ分解後の養分を求めて、大量の木の根が野糞跡を覆う」撮影:9/13/07 ©IZAWA Masana
宣言3 堆肥者は至るところに
堆肥の役割をもつのがアートならば、それは作家によってのみ作られるものではありません。
本章では県内の旅や移動に思いを寄せてつくられた小田香の映像作品《ホモ・モビリタス》を軸に「美術館堆肥化計画2021」紹介の「ミミズ博士」畑井新喜司、竹内正一の開拓記録写真、外崎令子による生活記録写真、「美術館堆肥化計画2023」が佐井村で出会った「子どもの休日応援団体」テラヨンカーズのミニ四駆(*)を通じた取組を紹介します。地域の現実を動かし、豊かにする堆肥者の小さな仕事をもとに美術館で扱い得る作品の領域を拡大していく章です。
*ミニ四駆は株式会社タミヤの登録商標です
堆肥者 小田香《ホモ・モビリタス》、畑井新喜司、竹内正一、外崎令子、テラヨンカーズ
十三湖干拓の記録写真(撮影者:竹内正一/撮影地:竹田地区[現中泊町中里付近]/1963年頃か) ©竹内覚
「わたしのふるさと みやのさわ」(1989-2023) ©外崎令子
そくせき図書室「みみずの足あと」
2021年から3年間にわたって実施された美術館堆肥化計画の記録集や作家関連本、ZINE、リサーチ資料などを閲覧できる図書室のようなブースを設けます。
美術館堆肥化計画2021→ 記録
美術館堆肥化計画2022→ 記録
美術館堆肥化計画2023→ 記録
宣言4 田附 勝:刻み込む土地・わたし
「美術館堆肥化計画2022」に参加した田附勝は、歴史や社会の中で見過ごされてしまうものに突き動かされるようにして撮影を続ける写真家です。六ヶ所村立郷土館の協力を得て館が保管する縄文土器片を撮影してシリーズ《KAKERA》新作を制作して以来、現在まで村に通っていた田附は2023年、村の人々の昼食を撮影してできた作品《お昼の時間》を制作しました。本章では田附がまなざした六ヶ所村を通じて地域の現実を「我がこと」として捉え、私たち一人ひとりにつながる場所を現像することを試みます。
堆肥者 田附勝
田附勝《原燃の柵とシオンの花》(2022-23) ©TATSUKI Masaru
宣言5 共に生きるための距離を再設定する
本章では「美術館堆肥化計画2021」でお世話になった五所川原の社会福祉法人あーるど主催の「ありのままの表現展」出品作品、小田香が「あーるど」で制作した作品や東通村の在来馬・寒立馬を主題とした映像をはじめとする作品、colere-ON体験をもとに弘前大学教育学部有志が描いた作品を紹介します。互いに軋轢や矛盾を抱えて生きる私たちが時に種を越え、共に生きるための距離を再設定する場としての美術館を検討する章です。
堆肥者 「ありのままの表現展」に集まった作家たち、小田香《これるおん 27 sep – 5 oct, 2021》、《寒立馬》《視線の遠近》、弘前大学教育学部有志
小田香《これるおん 27 sep – 5 oct, 2021》映像スチル ©ODA Kaori
小田香《視線の遠近》(2023-24) 写真 ©ODA Kaori
[I] 宣言6 アート・ユーザー・カンファレンス:ジェネラル・ミュージアム|墓
An Art User Conferenceはアートに関わる人びととユーザーの声が運営するアートコレクティブです。「美術館堆肥化計画」に3年続けて参加した彼らは環境世界をジェネラル(総合的)にとらえる視座のもと、現実空間と通じつつ異なる場所へと鑑賞者を誘う、道路の案内標識状のサインボードを県内各所に設営。現実空間をミュージアムが侵食する取組み「ジェネラル・ミュージアム|墓」を展開しました。本章では彼らの県下での活動を総覧し、「可能世界」を手がかりに認識の枠組みとしての美術館を、館内部に拡充・胚胎させることを試みます。
堆肥者 An Art User Conference
ジェネラル・ミュージアム|墓「目の墓」(2021- ) 五所川原市漆川字鍋懸周辺
ジェネラル・ミュージアム|墓「名は物の墓」「前は後の墓」(2022- ) キリストの里公園周辺(新郷村)
[H] 宣言7 ここはリビング・インフラとしての美術館
本展最後は、私たちが共に生きることを予祝する場を立ち上げます。空の展示什器も作品がのったそれも、まぜこぜとなった「展示未満状態」がつくられ、コレクションとともに県立郷土館所蔵の生活用具、県内出土の石器未満の自然石「偽石器」、東通村大利に伝わる予祝儀礼「庭田植え」の2024年の様子を記録した映像、佐井村出身の医師・三上剛太郎氏が日露戦争従軍時に負傷者の命をつないだ手縫いの赤十字旗がならび、「美術館堆肥化計画2023」でイタズラ・ヌーマンがマエダ本店に展示した手芸の作品群などが並びます。自然と人の営みの「あわい」から、堆肥化された美術館での展示のあり方を具体的に提案します。かつての美術館から「生の下支え構造(リビング・インフラ)」を現象せよ!
堆肥者 Itazura NUMAN、三上剛太郎、偽石器、庭田植え、荒川修作、斎藤義重
三上剛太郎《手縫いの赤十字旗》(1905) 所蔵:日本赤十字社青森県支部
偽石器(2021/採集:五所川原市金木付近)
Itazura NUMAN展示「メダルをサムへ」様子(むつ市マエダ本店/2023)