秋のコレクション展がはじまりました。
さて、常設展示室に入ってまず目に飛び込んでくるのは、棟方志功展示室を抜けたスペースからはじまる「相馬貞三と青森の民芸」のコーナーです。美術館の中に民芸品店が出現!?と思ってしまうほどの物量、種類の工芸品の数々・・・長さ3mにも及ぶ巨大な津軽凧から、現在も青森土産として人気の高い下川原焼土人形の愛らしい鳩笛まで、およそ190点にも及ぶ青森の伝統工芸品が一堂に介しているのです。これらの中には青森に住んでいる人にとっては馴染み深いものも少なくありませんが、その中でもハッと目にとまった品々をご紹介しましょう。
まずは《黒石馬っこ》。青森で馬をモチーフにした工芸品(玩具)といえば、日本三駒の一つとして名高い《八幡馬》が定番であり、今回の展示でも、その愛らしくも気品溢れる姿を楽しむことができます。がしかし、これらの華やかな馬の中にあって異彩を放つ一頭、それがこの《黒石馬っこ》なのです。高さ10㎝程のずんぐりとした体つきにボサボサのたてがみ、そして、煤で汚れた?かのような全身真っ黒のその姿は、展示ケースの中にいて、ちょっと場違いな雰囲気を漂わせているような感じがしなくもありません。けれど、日々眺めているうちに、この黒くてずんぐりした体型に対して、なんともいえない愛くるしさを覚えるようになってくるのだから不思議です。
相馬貞三さんをして、「・・・堂々として豊かに、飾り気なく悪びれず、思わずその肥えた脇腹を撫でてやりたい思いすら湧く」といわしめた存在感。その気持ち、よ~く分かります。確かに、《黒石馬っこ》のいる展示ケースを前にして、脇腹を撫でてやりたい衝動が日ごとに募る今日この頃、なのです。
さて、もう一つの気になる一品は、「マス」と呼ばれる、猿の形をした玩具です。こちらは下北産とのことですが、その形体の斬新さに思わず目を奪われてしまう一品なのです。すなわち、形の基本形は半分に切断した丸太であり、その半円形を猿の背中に見立てるという発想。さらに鉈(なた)一丁を使って、あくまで簡潔に、しかも絶妙なバランスで造形された足の表現や毛並みの表現。その大胆且つ洗練された造形表現には驚愕するばかりです。作り手は、山地で仕事をしていた山子(長い期間山に入って炭焼きなどに従事する人のこと)であったとのことですが、相馬さんは次のように記しています。
「おそらくは作者の心中には山中出没して珍しからぬ野猿の姿は熟しており、製作に当っては別に力む必要等はなく、鉈の運びにとどこほりがなかった・・・と解してよいのではあるまいか。」
今回ご紹介した二品は、残念ながら現在では作り手がおらず、普段なかなかお目にかかれない貴重品とのことですが、今回の展示では、ほかにも多彩な青森の工芸品の数々をご覧いただくことができます。ぜひ美術館に足をお運びいただき、自分だけのお気に入りの一品を見つけていただきたいと思います。