PHASE 2015 COMPANY: SECRETS OF NORTHERN JAPAN カンパニー: ニッポン・北のヒミツ

2015年8月1日(土) ━ 9月13日(日)

プロジェクト 終了
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PHASE 2015 COMPANY: SECRETS OF NORTHERN JAPAN カンパニー: ニッポン・北のヒミツ

昨年度からスタートした、若く才能豊かな国内外のアーティストたちに、美術館の空間を最大限に活かした展示や企画を実施していただくプロジェクトPHASE(ファーゼ)(※)。
昨年度に引き続き今年度も本県出身の美術家・奈良美智氏をディレクターに迎え、当館の「八角堂」を会場に開催いたします。

 

今年度のPHASEで奈良氏がピックアップするのは、フィンランドのデザインユニットCOMPANY(カンパニー)です。フィンランド人ヨハン・オリンと韓国人アーム・ソンの二人が2000年に設立し、ヘルシンキを拠点に国内外で活躍するCOMPANYは、デザイン大国フィンランドの若い世代を代表するデザイナーです。

 

近年、COMPANYは、フィンランドをはじめ、ベルギー、韓国、ロシアなど、世界各地の伝統工芸品を、遊び心溢れる独自の感覚でデザインし、あらたなプロダクトとして生まれ変わらせる「シークレッツSecrets」シリーズを行ってきました。このたびは、さまざまな工芸品を有する北の地を舞台に、この「シークレッツ」シリーズを展開します。

 

COMPANYのデザインによって、北の手仕事はどのように生まれ変わるのでしょうか。お楽しみに!

 

PHASE2015特設サイトはこちら

 

※「PHASE」はドイツ語で、「段階」や「相」を意味します。参加したアーティストたちの新たな「段階」への展開を支援し、青森県立美術館内の一つの場所が持つさまざまな「相」を生み出すことをねらいとしています。

COMPANY

COMPANYはフィンランド人ヨハン・オリンと韓国人アーム・ソンが、2000年に設立したユニットで、デザイナー、アーティスト、プロデューサーとしてヘルシンキを拠点に活躍する。フィンランド国内のみならず、ロンドン・デザイン・フェスティバル(2011)やミラン・ファニチャー・フェア(2008)など、大規模な国際展にも参加。2007年からフィンランド、ロシアや韓国などさまざまな国に古くから伝わる手仕事に触発されながら、現代のデザインと伝統工芸との融合を試みるシリーズ「Secrets」を展開する。2010年には、フィンランドのデザインの分野で最も栄誉あるフィンランド国家デザイン賞を受賞。ヘルシンキ市内に、デザインしたプロダクトを販売する店舗「サラカウッパSalakauppa」を経営する。

COMPANYからのメッセージ

2014年の夏と2015年の冬、私たちCOMPANY(カンパニー)は日本の北部を旅し、地域に古くから伝わる手工芸の職人たちに会いました。

 

日本が伝統に恵まれた手仕事の国であることは既に知っていましたが、今回の旅を通じてあらたに発見したことが一つありました。それは「精霊」です。

 

下北半島の恐山、津軽地方の川倉賽の河原地蔵尊、そしてこけし職人たちの仕事を通じて、「思い」というものが、悲しくも美しい目に見える姿をとって、普段の生活の中にとけ込んでいることを知ったのです。

 

そこで今回私たちは、伝統的な手仕事に基づいた新しい製品をデザインするだけではなく、それぞれの品の「精霊」をも創ることにしました。

 

「よき製品にはよき精霊が宿る」という私たちCOMPANYの信念のもとに生み出される「精霊」たち。これらの「精霊」は、展覧会オープニングセレモニーの夕刻に、行進しながら作品の中に入っていくことでしょう。

 

「ニッポン・北のヒミツ」のために作られた全ての作品は、日本の北の人々の伝統、手仕事そして「思い」からインスピレーションを受けて、COMPANYがデザインしました。大部分は日本の職人たちや地方の工場で作られたものですが、中にはフィンランドの手仕事の職人たちによって作られたものもあります。

 

青森県立美術館の館内では、過去に行ったプロジェクト「フィンランドのヒミツ」と「ロシアのヒミツ」のための作品も展示します。フィンランドから北方ロシアを通って日本へといたる北の地の伝統には、互いに何か強い結びつきがあると感じています。

 

COMPANY / アーム・ソン&ヨハン・オリン

ディレクター・奈良美智からのメッセージ

・・・COMPANYのヒミツ
去年の夏、僕はフィンランドからやって来た二人組のユニット『カンパニー』(COMPANY)と津軽地方を巡った。彼らは今回の展覧会プロジェクトのため、すでに東北をリサーチしてきていて、青森は最終地だった。僕らは弘前をぶらぶらして、ネプタ小屋にお邪魔したり、伝統的な津軽塗の工房を観て回り、ブナコ(注1)や染色の制作体験もやってみた。津軽三味線のライブも堪能して、青森ネブタの華やかなエンターテイメントや花火大会も楽しんだ。まぁ、お決まりの観光コースなのだろうけど、まずはそういうところを見せてあげないと、と思ったのだけど、案外自分も観光客のように楽しめた。

 

彼らはどこに行っても小さなノートにメモを取ることを欠かさなかった。自分にとっては当たり前の風景、リンゴ畑すらも彼らの眼には面白く映ったのだろうか、とか思い始めると、故郷を離れて30年以上経つ自分も、急に景色が新鮮に見えたりもした。彼らのノートには青森県以外でも、東北のコケシ職人やいろんな工芸家を訪ねたことが、手描きの図とともにびっしりと書かれていて、それはなんだか、明治時代に日本の辺境に旅して記録していったヨーロッパ人の残したもののように見えて、自分の中で時間と場所がツイストした。

 

一緒の旅の最終日、僕らは岩木山麓に宿をとり、古くから信仰の対象であった岩木山の山頂に登り、周辺の森を探索した。その最後の1日が文化や慣習の違いをとっぱらい、日本以上に共生意識をもって自然と暮らすフィンランドからやって来たふたりと、この東北の果てを精神的に結びつけた気がする。事実、岩木山を後にしてから、僕は彼らを五所川原市の「川倉賽の河原地蔵尊」に連れていくことを思いつき、模範生的な観光から逸脱してしまった。しかし、これが今回の展示アイディアにおいて何かしら重要なステップになった気がしている。

 

恐山にも行った、と彼らは話していたが、「川倉賽の河原地蔵尊」での体験はかなりインパクトがあったはずだ。たくさんの化粧地蔵があるお堂の中では、造形的、美術的な面白さもあったが、隣接されている建物に入った時は言葉を失った。それは、子どもを亡くした親や親族が、その子の結婚適齢期に合わせて奉納した夫婦人形が並ぶ建物で、人形の数は2000体以上はあっただろう。この人形を介しての死霊結婚という行いは、戦後から始まったと言われていて決して古いものではないが、自分にとってさえ、本州最北端の地の特異な風習に思えた。僕は拙い英語で、水子地蔵や夫婦人形のことを説明したのだが、話しているうちに自分がどのような土地で生まれ育ったのかを意識せざるを得なかったのだ。

 

フィンランドの人々は、古くから北欧的な自然崇拝、すべてのもの神が宿るというような多神教意識のもとに暮らしていたが、キリスト教の伝来と近代化の後、そのような意識は希薄になっていった。しかしながら、民衆の暮らしの中には森や自然と人のスピリチュアルな関係が未だに存在している感がある。そのような迷信と言われても仕方ないようなことが、生活の中で機能しているというのは、恐山や川倉の大祭に集い、口寄せをするイタコに人々が耳を傾けたり、女性たちが、男子禁制の部屋でおしら様を遊ばせて楽しむ風習の残る、この青森県と似ていると思うのだ(注2)。もちろん、現代青森ではそのような人々は少数派、あるいは保存すべきもの、もしくは観光の一部としてしか存在していないのかもしれない。それでも、近代化以降も、生活の中に感覚として、スピリチュアルなものが残っていることは事実だろう。

 

フィンランドを拠点とする二人組ユニットCOMPANYではあるが、一人はフィンランド人のヨハン・オリン (Johan Olin)であり、もう一人は韓国出身のアーム・ソン (Aamu Song)である。アームはフィンランドの大学に留学し、卒業後も彼の地に留まり今に至っているのだが、隣国である韓国もまた、まじないや祈祷の類が生活の中に残っている国である。彼女の発言や意識にはとても霊感的なものがあると、僕は感じている。話は飛ぶが、その感覚は、やはり自然崇拝が暮らしの中に残っているアイスランド出身の歌手、ビョークから受けるものにとても似ている。カンパニーの二人が東北を旅して、土着的でスピリチュアルなものに興味を持ったとしても、それはまったく不思議ではないのだ。

 

このテキストを書いている時点で、彼らの展示の詳細を僕はまだ知らない。それでも、単にカッコいいもの、あるいは単なるローカリゼーションに乗っかったような展示にはならないだろうと思うのだ。それは、彼らがこの東北という土地を旅して得たであろうものが、この自分がバックグラウンドとして逃れられない青森、東北という磁場に繋がっていると確信しているからだ。

 

最後にカンパニー、その二人との出会いを記しておく。僕らは2006年、日本やフィンランドから遠く離れたタイのバンコクで出会った。シラパコーン大学のギャラリーで行われたグループ展の出品作家同士で、共通の知人を介して紹介された(注3)。その時は、そんなに話もせず、彼らの仕事(作品)にはとても興味を持ったが、連絡を取り合うということもなかった。

 

それから、6年後の2012年。ヘルシンキの美術館でレクチャーを行うために訪れた初めてのフィンランド。朝の街をぶらついてると「ナラ・サン?」と、小屋のようなブティックの前で開店準備をしている男性に声をかけられたのだった。それがヨハンとアームとの7年ぶりの再会だった。彼らの店で、実際のプロダクトを手にして、説明を聞いた。それはいろんな土地で、そこに暮らす職人たちの技術と彼らのアイディアとのコラボレーションで、独創性にあふれていた。さらに自分のレクチャー会場の美術館で、偶然に彼らのロシアでのプロジェクトの展覧会が開かれていた(注4)。ロシアの工芸職人たちを巻き込んだプロジェクトは、面白い!以外の何物でもなかった。僕は、その時から、偶然の再会は必然だったのだな!と思い始めて、こうしてこの地まで彼らを呼ぼうと決心して、今にいたったわけなのです。

 

このテキストでは、彼らが今まで行ってきたプロジェクトや作品については触れなかったが、興味を持ったならば彼らのウェブサイトを訪れてみてください(注5) 。面白いよ!

 

(注1) 青森県が日本一の蓄積量を誇るブナの木を厚さ1mm程度のテープ状にカットし巻き重ねたものを、器状に成形して作られる青森の木工品。50年の歴史をもつ弘前市の「ブナコ株式会社」で製作されている。
(注2)  日本三大霊場の一つ恐山の大祭[7月20-24日]や「川倉賽の河原地蔵尊」の大祭[旧暦6月22-24日]には、県内各地から「イタコ」と呼ばれる盲目・半盲目の巫女(霊媒)が集まる。「イタコ」は依頼者の求めに応じて、故人の霊魂をあの世から呼び寄せる「口寄せ」を行う。「おしら様」は東北の家の神として祀られるもので、一般に養蚕の神として知られるが、青森県では、家の守り神、農神、火を防ぐ神、厄を払う神などとしても長らく信仰されてきた。御神体は長さが30cmほどの男女(あるいは馬と娘)1対の木偶で、オセンダクと呼ばれる布切れが幾重にもかぶせられている。代々女性によって祀られ、「イタコ」(あるいはカミサマと呼ばれる民間宗教者)を呼んで行われる祭祀「おしら様遊ばせ」は、集落の主婦たちが中心となった年中行事となっている場合がある。
(注3) 2006年、タイ、バンコクのシラパコーン大学Silpakorn Universityで開催された 「束の間美術館 ソイ・サバーイSoi Sabai」展。
(注4)  2012年、ヘルシンキの国立現代美術館キアズマで開催されたグループ展「カモフラージュ」にはカンパニーの「シークレッツ・オブ・ロシア Secrets of Russia」の作品が出品された。Camouflage, Kiasma, Helsinki, Finland, 2012
(注5) 「カンパニー COMPANY」のホームページ(英語のみ): http://www.com-pa-ny.com

開催概要

会期

2015年8月1日(土)~9月13日(日)

休館日

8月24日(月)

開館時間

9:00 – 18:00 (入館は17:30まで)

場所

青森県立美術館 八角堂、地下2階奈良美智展示室

観覧料

[八角堂] 無料
[地下2階奈良美智展示室] 常設展チケットが必要

後援

フィンランド大使館

特別協力・助成

フィンランド教育・文化省|The Finnish Institute in Japan

助成

Finnish Cultural Foundation

協賛

EPSON

関連企画

前夜祭

COMPANYや奈良美智氏をお迎えして、オープニングセレモニーと、COMPANYがデザインした衣装に身を包んだ精霊(!?)たちのパレードを行います。お気軽にご参加ください。
日時: 7月31日(金) 16:00-
会場: 青森県立美術館敷地内
参加料: 無料

アーティストトーク

COMPANYと奈良美智氏が、「北のヒミツ」についてお話しします。
日時: 8月 1日(土) 14:00-15:30 [開場 13:30]
会場: 青森県立美術館シアター
定員: 220名
参加料: 無料
※当日13:00から1階受付で整理券を配布します。

公開デザインセミナー

COMPANYと、モノづくりを学ぶ高校・大学生たちが互いの活動を発表し合い、デザインを通じて交流します。
日時:2015年8月2日(日)10:00 – 12:00
会場:A-FACTORY 2Fラウンジ
講師:COMPANY
発表校:青森県立青森第一高等養護学校、八戸工業大学第二高等学校 美術コース、八戸工業大学 感性デザイン学科 ビジュアルデザインコース
定員:30名
参加料:無料・見学自由