コレクション展 2019-1

2019年3月9日(土) ━ 7月7日(日)

コレクション展 終了
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コレクション展 2019-1

企画展「アルヴァ・アアルト-もうひとつの自然」(4月27日~6月23日)に関連した「デザイン」の特集展示を行います。棟方志功の装飾性に富む作品や包装紙のデザイン、成田亨のウルトラ怪獣のデザイン原画、寺山修司が主宰した演劇実験室◎天井棧敷のポスター、石井康治による彩り豊かな北国の四季をうつしとったガラス作品、菊地敦己が手がけたブックデザイン、ブナコの照明器具などを紹介します。また田澤茂の鬼や仏を題材にしたユニークな作品群や、奈良美智展示室も一部リニューアル。青森の春にふさわしい多彩な展示をお楽しみください。

開催概要

会期

2019年3月9日(土)~7月7日(日)

展示内容

【特集展示】デザインあれこれ

展示室N:棟方志功のパッケージデザイン
棟方志功展示室:棟方志功の装飾性
棟方志功は、1928年から美術団体に版画を出品するようになり、版画家として評価されつつあった一方で、版画でなければできない表現とは何かを模索し続けていました。そして「板画は何か普通の絵とは違う、だから絵であらわせぬものをつくらなければならないとだけ思っていました。(中略)絵を模様化することが一番の板画への早道ではないかと思ったのです。」(『板画の道』1956年)という考えに至り制作したのが「萬朶譜」(1935年)でした。「萬朶譜」は棟方作品の中では、「いろは板画柵」(1952年)、「柳緑花紅頌」(1955年)とあわせて、人体表現によらない装飾的要素の強い系列の代表的な三作品といわれています。本展示では、この三作品を中心に、棟方の追い求めた装飾性が遺憾なく発揮された作品を紹介します。
また、棟方の装飾性を支えていたのは、棟方に備わっている天性のバランス感覚とデザイン力でした。棟方がデザインしたものは、本の装幀、ポスター、舞台の緞帳、包装紙など多岐にわたっていますが、その中から主に郷里・青森に関係した資料を中心に紹介します。

棟方志功《桃真盛り》
1933年
多色木版・紙

展示室P,Q:田澤茂:鬼と仏と故郷と
田舎館村に生まれた田澤茂は、仏教、神話、民話、妖怪や鬼などの日本的な題材や、化粧地蔵など、故郷の津軽の風土に根ざした土着性を感じさせるような作品を数多く描いています。その作風は、アンフォルメル運動の隆盛期に試みられたパラフィンを用いた抽象的な手法から、戦後関わりつづけた子供のための絵画教室や漫画・イラストなどとも関連づけられる童画的な手法、古美術の引用など、多様で自在な展開をみせています。
土着的・伝統的な題材をもちいながら、奔放なユーモアと創造力に富んだ田澤の表現の根底にあるのは、善悪・明暗すべての要素を含む人間の様々な生や感情への関心です。鬼や仏、魑魅魍魎や菩薩といった題材は、田澤にとって人間の生の実相と救いへの希求を日本の歴史、故郷の民俗の中でとらえるためのの端的な主題でした。今回は、その中でも晩年に至るまで精力的に制作された大作を中心に展示します。

展示室M:菊地敦己のブックデザイン
菊地敦己は、青森県立美術館のVI(ヴィジュアルアイデンティティー)計画を担当するアートディレクター/グラフィックデザイナーです。美術館全体の体験をイメージとして伝達していくことを意図してデザインされたシンボルマークやロゴタイプ、サイン等は美術館の建物や周囲の環境と調和しながら独自の景色を作り出し、開館以来多くの来館者に親しまれています。
菊地は、美術やファッション、建築などの分野のグラフィックデザインを多く手がける他、グラフィックデザインそのものを考察する作品制作や発表も行っています。
今回の展示では、2000(平成12)年にウェブデザイナー/ミュージシャンの斎藤寿大とともに設立した「ブルーマーク」の主要な活動の一つであった新進作家の作品集出版や雑誌のアートディレクション、また、様々な美術館からの依頼により制作された展覧会カタログ等出版物のブックデザインの仕事を、近年、当館に寄贈いただいた資料を中心に紹介します。

展示室L:ブナコ:光・音・形をデザインする
BUNACOは、日本一の蓄積量を誇る青森県のブナの木を有効利用するため、1956年、青森県工業試験場場長城倉可成氏と石郷岡啓之介の共同研究により開発された独自の製法による木工品です。 その製法はブナの原木をかつらむきの原理で約1mmの厚さにスライスし、テープ状にカットにしたものを巻き重ねたのち、湯飲み茶碗などの道具を使い、押し出して成型するというものです。熟練の職人たちによって作られる製品は、割れや歪みなどの狂いが少なく、従来の技術ではできなかった形状が可能なため、デザイナーとのコラボレーションによるスタイリッシュな製品を数多く発表しています。 1963年にブナコ漆器製造株式会社が設立されて以来、BUNACOの製品は1966年に県内企業初の通産省選定グッドデザイン商品(Gマーク)に選定されるなど、国内外でさまざまな賞を受賞していますが、最近ではBUNACO SPEAKER designed by nendoが、インダストリアルデザインが社会に寄与する質の高い製品を選定する2018年のJIDAデザインミュージアムセレクションvol.20に選定されました。 青森県立美術館のオフィスにも、BUNACOによるランプシェードが使用されています。 今回はBUNACO SPEAKER designed by nendをはじめ、照明器具や食器、ティッシュシュボックスなど代表的な製品を展示します。

展示室J,K:石井康治:詩・季・彩
青森の自然を愛し、北国の四季を彩り豊かなガラス作品にうつしとった石井康治。石井は自身の創作について「色ガラスを用いて自分のイメージを詩のような感じで作りたい」と語り、そのテーマを「詩・季・彩」という言葉で表しました。その言葉のとおり、それぞれの作品は、彼の愛した青森の四季を謳う一篇の詩のように私たちに語りかけます。
1991年、現在県立美術館が建つ場所に程近い、青森市三内に工房を構えた石井は、96年に急逝するまで、この地で精力的にガラスの素材と技法について研究を重ね、青森の四季と風土にインスピレーションを受けた独自の造形を次々と生み出しました。
石井の創作は、ドローイングやデッサンなどで身近な自然を写生することからはじまります。そして工房で熱したガラスを中空の棹に巻き取り、息を吹き込んで膨らませ、そこに選び抜いた色彩を溶着させ、最終的なかたちを作っていきます。自然、そしてガラスという素材に向き合い、対話を重ねながら、繊細な感性と優れた造形感覚を研ぎ澄ませ、その確かな手の技によって、石井は、青森の自然を、ガラスに映える光と流れる色彩にうつしとっていったのです。
今回は、青森の自然が最も華やぐ春から爽やかな初夏、そして鮮烈な夏へとうつろう季節をイメージさせる作品をご紹介します。
*前期(~5/12)、後期(5/14~)で展示替を行います。

石井康治《テーブルランプ》
1996年
吹きガラス
青森県立美術館寄託
撮影:大堀一彦

展示室I:成田亨:鬼と怪獣
成田亨(1929-2002)は、「ウルトラマン」、「ウルトラセブン」という初期ウルトラシリーズのヒーロー、怪獣、宇宙人、メカをデザインし、日本の戦後文化に大きな影響を与えた彫刻家兼特撮美術監督です。
成田は神戸市に生まれ、直後に青森県へ移りました。旧制青森中学(現青森高等学校)在学中に画家・阿部合成と出会い、絵を描く技術よりも「本質的な感動」を大切にする考え方を、さらに彫刻家の小坂圭二から対象物の構造や組み立て方、ムーブマンを重視する方法論を学んだ後、武蔵野美術学校(現武蔵野美術大学)西洋画科へと進学。当初は油彩画を専攻していましたが、「地面から立ち上がるようなデッサンを求める」(成田)ため3年次に彫刻科へ転科。具象性を維持しつつもフォルムを自在に変容させ、動的かつ緊張感ある構成を作り上げていくという成田芸術の基礎がここで形づくられていきました。
武蔵野美術学校研究科に在籍していた1954年、成田は人手の足りなかった「ゴジラ」の製作に参加、そこで円谷英二と出会い、以降特撮美術の仕事も数多く手がけるようになります。
1965年、東宝撮影所で円谷英二と再会し、「怪獣のデザインはすべて自分がやる」という条件のもと「ウルトラQ」の2クールから制作に参加、以降「ウルトラマン」、「ウルトラセブン」までのシリーズに登場するヒーロー、怪獣、宇宙人、メカニック等のデザインを手がけます。放映に際し、「これまでにないヒーローの形を」という脚本家・金城哲夫の依頼を受けた成田は、ウルトラマンのデザインを純粋化という「秩序」のもとに構築し、対する怪獣のデザインには変形や合成といった「混沌」の要素を盛り込んでいきます。
美術家としての高い感性によってデザインされたヒーロー、怪獣は、モダンアートの成果をはじめ、文化遺産や自然界に存在する動植物を引用して生み出される形のおもしろさが特徴です。誰もが見覚えのあるモチーフを引用しつつ、そこから「フォルムの意外性」を打ち出していくというその一貫した手法からは成田の揺らぐことのない芸術的信念が読みとれるでしょう。

展示室H:テラヤマ:ジャパン・アヴァンギャルド
寺山修司 (弘前市出身/1935-83) は県立青森高等学校時代、「俳句」によって表現活動をはじめ、早稲田大学進学後は「短歌」の世界へ、その後凄まじいスピードでラジオ、テレビ、映画、そして競馬やスポーツ評論の世界を駆け抜けていったマルチアーティストです。1967年には「演劇実験室◎天井棧敷」を立ち上げ、人々の旧来的な価値観に揺さぶりをかけ、さらには多岐にわたる活動の中、美術、デザイン、音楽といった様々なジャンルで新しい才能を発見し、育てていったことも特筆すべき業績の一つと言えましょう。
1960~70年代はいわゆるアングラ文化が全盛の時代でした。高度成長によって近代化が急速に進む一方、社会的な構造と人間の精神との間に様々な歪みが生じ、そうした近代資本主義社会の矛盾を告発するかのように権力や体制を批判、従来の価値観を否定していく活動が盛んとなっていったのです。特に寺山は大衆の興味や関心をひきつける術に特異な才能を発揮しました。演劇や実験映画ではそれが顕著で、演劇、映画のあらゆる「約束事」が否定され、感情や欲望を刺激するイメージで覆い尽くされた寺山の斬新な作品は多くの人々を虜にしていきました。
このコーナーでは、寺山が主宰したアングラ文化の象徴とも言うべき「演劇実験室◎天井棧敷」のポスター18点を紹介いたします。

及川正道《書を捨てよ!町に出よう!》
1969年
シルクスクリーン・紙

通年展示

展示室F、G:奈良美智 《Puff Marshie》《Hula Hula Garden》
国内外で活躍する青森県出身の美術作家・奈良美智(1959- )は、挑むような目つきの女の子の絵や、ユーモラスでありながらどこか哀しげな犬の立体作品などで、これまで若い世代を中心に、多くの人の心をとらえてきました。
青森県立美術館では、開館前の1998年から、絵画やドローイングなど、奈良美智作品の収集を始めました。現在、170点を超えるそのコレクションの多くは、奈良が1988年から2000年まで滞在したドイツで生み出されたものです。
この展示室では、当館がほこる奈良美智の90年代のコレクションを中心に、《Puff Marshie (パフ・マーシー) 》(2006年)や《Broken Heart Bench (ブロークン・ハート・ベンチ) 》(2008年)など、作家からの寄託作品も展示しています。

アレコホール:マルク・シャガールによるバレエ「アレコ」の舞台背景画
青森県立美術館の中心には、縦・横21m、高さ19m、四層吹き抜けの大空間が設けられています。アレコホールと呼ばれるこの大きなホールには、20世紀を代表する画家、マルク・シャガール(1887-1985)によるバレエ「アレコ」の背景画が展示されています。青森県は1994年に、全4作品から成るバレエ「アレコ」の舞台背景画中、第1幕、第2幕、第4幕を収集しました。
これらの背景画は、帝政ロシア(現ベラルーシ)のユダヤ人の家庭に生まれたシャガールが、第二次世界大戦中、ナチス・ドイツの迫害から逃れるため亡命していたアメリカで「バレエ・シアター(現アメリカン・バレエ・シアター)」の依頼で制作したものです。大画面の中に「色彩の魔術師」と呼ばれるシャガールの本領が遺憾無く発揮された舞台美術の傑作です。
残る第3幕の背景画《ある夏の午後の麦畑》は、アメリカのフィラデルフィア美術館に収蔵され、長らく同館の西側エントランスに展示されていましたが、このたび同館の改修工事に伴い、4年間の長期借用が認められることになりました。青森県立美術館での「アレコ」背景画全4作品の展示は、2006年の開館記念で開催された「シャガール 『アレコ』とアメリカ亡命時代」展以来です。背景画全4作品が揃ったこの貴重な機会に、あらためてシャガールの舞台美術作品の魅力をお楽しみください。

★フィラデルフィア美術館所蔵の第3幕は、長期の借用となるため、函館税関からアレコホールを保税展示場とする許可をいただいて展示しています。
展示期間:2017年4月25日 – 2021年3月頃(予定)
アレコホールへのご入場には、コレクション展もしくは企画展の入場チケットが必要です。