コレクション展 2020-1:「春」を刻む

2020年3月20日(金) ━ 7月12日(日)

コレクション展 終了
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コレクション展 2020-1:「春」を刻む

コレクション展 2020-1:「春」を刻む

2020年のコレクション展第1弾では、「春」をテーマに収蔵作品を紹介します。季節や生きものの成長する様子、新しい時代の幕開けといった様々な意を含む「春」。そんな「春」に寄せて、棟方志功の板画家としての芽生えを示す作品、成田亨のウルトラ怪獣のデザイン原画、シュルレアリスムを代表する芸術家ダリの版画作品の連作、濱田庄司の民藝作品などを紹介します。五所川原市教育委員会からご寄託いただいた、青森の子どもたちの手による版画作品の数々も見逃せません。奈良美智展示室も一部リニューアル。命のきらめきにも似た作品の数々をとおして、北の地・青森の「春」をお楽しみください。

開催概要

会期

3月20日(金・祝)~7月12日(日)

休館日

3月23日(月)、3月24日(火)、4月13日(月)、5月11日(月)、5月25日(月)、6月8日(月)、6月22日(月)

展示内容

展示室H|青森の教育版画:花と小鳥と太陽と

戦後の図工教育の現場において、版画制作への関心が全国規模で高まりを見せた時期がありました。中でも青森のそうした「教育版画」の実践は、以前からの版画への関心の高さも相まって、実に多様な展開を示しています。海や山にまつわる仕事。村の開拓の歴史。米作りの日々。地域に根ざした記憶と記録を集め、想像力を自由に広げ、丁寧につくられた様々な版画作品の数々。それらについて県下教育版画の代表的な指導者の一人である坂本小九郎は、「子どもたちの表現する版画は、風土と歴史と人間を鏡のように忠実に映し出す」と言います。ならば子どもたち自身の手で描かれ・彫られ・刷られる版画の一枚一枚は、そのまま地域社会と子どもたちの成長のひと時を刻むものであり、人がこの土地に在ろうとする意志の一欠片と言えます。
今回の常設展では青森の小学生・中学生の版画作品のうち、教育版画の普及につとめた教育者・大田耕士(1909-1998)が集め、現在五所川原市教育委員会が所蔵する中から、花や小さな生き物をモチーフにした、様々な「成長」を感じさせる作品を紹介します。集落の発達や、生命の故郷たる海に抱かれ船が導く、万物が共存するイメージの大海原、そこに咲く色とりどりの花々…。画面に宿るファンタジーの緻密さ壮大さに私たちは圧倒されますが、そうして生まれた作品の奥底にあるのは、子どもたちが日常をとおして他者や世界にふれた時の小さな感動であることを忘れてはならないでしょう。それに気づいた時、子どもにも大人にも、それぞれの心の中には「春」という名の成長の兆しがいつも確かに息づいています。

八戸市立湊中学校養護学級生徒(指導:坂本小九郎)
「天馬と牛と鳥が夜空をかけていく」(《虹の上を飛ぶ船・総集編(2)》より)
1976年
木版・紙
五所川原市教育委員会蔵(青森県立美術館寄託作品)

展示室I|棟方志功:芽萌える春

ゴッホに憧れ油絵を描き始めた棟方志功は、1924年本格的に絵を学ぶために上京します。帝展入選をめざしていましたが、4年連続落選している間に版画家・川上澄生の《初夏(はつなつ)の風(かぜ)》に感銘を受け、1927年には版画作品を試みました。初期の版画作品は、ドレスを着た貴婦人や星座など西洋趣味的な題材を用いたり、文字を彫り込んだり、また、《星座の花嫁》《桃真盛り》など色数に違いはあるものの、多色摺り版画を試みたりするなど川上澄生の影響が見られます。油絵の制作も続けていた棟方は1928年、ようやく帝展入選を果たしますがその頃には油絵の在り方に疑問を持つようになり、日本人なのだから日本から生まれ切れる仕事、ゴッホも高く評価した木版画で自分の世界をもちたいと版画の道に進んでいきます。
このたびの展示では、油絵画家をめざしていた棟方が版画に惹かれ、迷いながらも進んでいった初期の版画作品、そしてちょうどその頃に描いた油絵《庭》も展示いたします。《庭》は平成30年度に受贈した作品で、このたび修復作業を終え初公開となります。また、郷土青森の12か月の風物を鮮やかに描いた倭画や、花札の図柄に興味を持っていたことから好きな花々や木々を動物と組み合わせ、装飾的で華やかに四季を描いた板画作品など、春の訪れを感じさせるような生命力あふれる作品もご紹介いたします。

※棟方は1942年に「版画」を「板画」表記にすると宣言しているため、文章中それ以前の事柄や一般的な版画を扱う場合は「版画」表記にしています。

棟方志功《花矢の柵》
1961年
木版、彩色・紙

展示室J|松下千春、サルバドール・ダリ、濱田庄司:「春」を刻む

寒さが和らぎ、土の中から這い出てくる虫たちに春を謳歌するさまを連想するように、松下の版画集《葉蔭》における小さな生き物たちは、現実以上の親密な存在として私たちの眼前に現れます。この「現実以上の親密さ」をもとに、ダリの版画集《シュルレアリスムの思い出》に収められた12枚を見てみましょう。天使、バラ、粒子、蝶、眼、肖像、細長く引き伸ばされた肢体、古典絵画への関心、狂気、松葉杖…。本作においてはダリが長年親しんできた事物が再解釈され、多義的な象徴性を付与されます。このようなイメージの輪廻転生においては、おそらく繰り返されることそれ自体に超現実(シュルレアル)としての「春」、すなわちいつの時代も瑞々しい作家の感性がひそんでいるのです。そして様々な試行の果てに作品が現れることを、私たちは濱田の仕事から知ることができます。釉薬のかけ方の神がかり的な速さを指摘され、「15秒プラス60年(15秒の施薬の背後には60年分の仕事がある)」と返してみせた濱田。そんな濱田の花生は、植物としての花が生けられることの背後に、長大な試行の果て、感性と技術の一致するところに現れる賜物を、束の間この世界に留めておくための機能を備えている、と言えるのではないでしょうか。
今回の常設展をとおして、あなた自身がこの世界の中で生きるべき「春」、すなわち想像/創造のありかを見つけていただけたら幸いです。

サルバドール・ダリ「シュールなフラワー・ガール」
(版画集《シュルレアリスムの思い出》より)
1971年
リトグラフ、エッチング・紙

展示室K|成田亨:鬼と怪獣

成田亨(1929-2002)は、「ウルトラマン」、「ウルトラセブン」という初期ウルトラシリーズのヒーロー、怪獣、宇宙人、メカをデザインし、日本の戦後文化に大きな影響を与えた彫刻家兼特撮美術監督です。
成田は神戸市に生まれ、直後に青森県へ移りました。旧制青森中学(現青森高等学校)在学中に画家・阿部合成と出会い、絵を描く技術よりも「本質的な感動」を大切にする考え方を、さらに彫刻家の小坂圭二から対象物の構造や組み立て方、ムーブマンを重視する方法論を学んだ後、武蔵野美術学校(現武蔵野美術大学)西洋画科へと進学。当初は油彩画を専攻していましたが、「地面から立ち上がるようなデッサンを求める」(成田)ため3年次に彫刻科へ転科。具象性を維持しつつもフォルムを自在に変容させ、動的かつ緊張感ある構成を作り上げていくという成田芸術の基礎がここで形づくられていきました。
武蔵野美術学校研究科に在籍していた1954年、成田は人手の足りなかった「ゴジラ」の製作に参加、そこで円谷英二と出会い、以降特撮美術の仕事も数多く手がけるようになります。
1965年、東宝撮影所で円谷英二と再会し、「怪獣のデザインはすべて自分がやる」という条件のもと「ウルトラQ」の2クールから制作に参加、以降「ウルトラマン」、「ウルトラセブン」までのシリーズに登場するヒーロー、怪獣、宇宙人、メカニック等のデザインを手がけます。放映に際し、「これまでにないヒーローの形を」という脚本家・金城哲夫の依頼を受けた成田は、ウルトラマンのデザインを純粋化という「秩序」のもとに構築し、対する怪獣のデザインには変形や合成といった「混沌」の要素を盛り込んでいきます。
美術家としての高い感性によってデザインされたヒーロー、怪獣は、モダンアートの成果をはじめ、文化遺産や自然界に存在する動植物を引用して生み出される形のおもしろさが特徴です。誰もが見覚えのあるモチーフを引用しつつ、そこから「フォルムの意外性」を打ち出していくというその一貫した手法からは成田の揺らぐことのない芸術的信念が読みとれるでしょう。

成田亨《ガヴァドン成獣》
1966年
ペン、水彩・紙
©Narita/TPC

通年展示 展示室F、G|奈良美智1985-2019 -新寄託作品を中心に

国内外で活躍する青森県出身の美術作家・奈良美智は、挑むような目つきの女の子の絵や、ユーモラスでありながらどこか哀しげな犬の立体作品などで、これまで若い世代を中心に、多くの人の心をとらえてきました。
青森県立美術館では、開館前の1998年から奈良美智作品の収集を始め、現在、その数は170点を超えます。
2020年3月からは、絵画やドローイング、ブロンズなど、作家からの寄託作品24点があらたに加わりました。中には画家・杉戸洋とのウィーンでの共同制作による絵画(2004年)や、北海道白老町にある集落、飛生(とびう)での滞在と同地のコミュニティとの交わりから生まれた近年の作品が含まれています。
当館収蔵の初期作品から新規に寄託された近作まで、奈良美智の実り豊かな創造の歩みを展観します。

通年展示 アレコホール|マルク・シャガールによるバレエ「アレコ」の舞台背景画

青森県立美術館の中心には、縦・横21m、高さ19m、四層吹き抜けの大空間が設けられています。アレコホールと呼ばれるこの大きなホールには、20世紀を代表する画家、マルク・シャガール(1887-1985)によるバレエ「アレコ」の背景画が展示されています。青森県は1994年に、全4作品から成るバレエ「アレコ」の舞台背景画中、第1幕、第2幕、第4幕を収集しました。
これらの背景画は、帝政ロシア(現ベラルーシ)のユダヤ人の家庭に生まれたシャガールが、第二次世界大戦中、ナチス・ドイツの迫害から逃れるため亡命していたアメリカで「バレエ・シアター(現アメリカン・バレエ・シアター)」の依頼で制作したものです。大画面の中に「色彩の魔術師」と呼ばれるシャガールの本領が遺憾無く発揮された舞台美術の傑作です。
残る第3幕の背景画《ある夏の午後の麦畑》は、アメリカのフィラデルフィア美術館に収蔵され、長らく同館の西側エントランスに展示されていましたが、このたび同館の改修工事に伴い、4年間の長期借用が認められることになりました。青森県立美術館での「アレコ」背景画全4作品の展示は、2006年の開館記念で開催された「シャガール 『アレコ』とアメリカ亡命時代」展以来です。背景画全4作品が揃ったこの貴重な機会に、あらためてシャガールの舞台美術作品の魅力をお楽しみください。

 

★フィラデルフィア美術館所蔵の第3幕は、長期の借用となるため、函館税関からアレコホールを保税展示場とする許可をいただいて展示しています。
展示期間:2017年4月25日 – 2021年3月頃(予定)
アレコホールへのご入場には、コレクション展もしくは企画展の入場チケットが必要です。

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