コレクション展2025-4
コレクション展第4期は特集展示が二本立て!3期に引き続き1950~90年代の県内小中学生が制作した版画作品をコレクションとともに紹介する「コスモスの咲くとき -地域に学び、平和を刻む教育版画の”いま”」を、作品を追加し後期展示として開催します。あわせてコレクションをダリの手法を切り口として紹介する特集展示「非日常の世界」を行います。ウィリアム・ブレイク《ヨブ記》を久々にご紹介する海外版画展示も見逃せません。
また通年展示として棟方志功や奈良美智の作品、シャガールによるバレエ「アレコ」舞台背景画を紹介します。
開催概要
会期
2026年1月24日(土)~4月12日(日)
休館日
2026年1月26日(月)、2月9日(月)、2月24日(火)、3月9日(月)、3月23日(月)
会場
地下1階および地下2階展示室F,G
チケット販売
一般700(560)円
大学生400(320)円
18歳以下および高校生 無料
*( )は20名以上の団体料金 **心身に障がいのある方と付添者1名は無料
展示内容
展示室M,L,J,I|特集展示「コスモスの咲くとき -地域に学び、平和を刻む教育版画の"いま"」(後期)
展示の詳細はこちら。
N, 棟方志功展示室, 屋外展示前室|絵とわたくしと板画 -棟方志功
棟方志功《赤松庭の富士山》1965年
油彩・キャンバス 50.0×61.0cm
18歳になる棟方志功は、雑誌『白樺』に掲載されたゴッホの《Sunflowers》に感激し油絵を描き始めました。憧れから始まっただけあり、初期の油絵にはゴッホやセザンヌなど西洋絵画から学んだであろう丁寧な描写や筆致が見てとれます。しかし、油絵を描くうちにある疑問が生じました。西洋からきた油絵を描くということは、西洋人の弟子ではないのか――「日本人のわたくしは、日本から生まれ切れる仕事こそ、本当のモノだと思ったのでした」(『板極道』、中央公論社、1964)そう気づき版画に心傾いていた頃、訪れた伊豆大島で青森とは違う南国的な植物など美しい自然を目にし「現実の色を活かすものは、日本画でも木版画でもなく、それは油絵」「油絵は原色で混りっ気のないものを描こう、板画では、黒と白を生かしてゆこう」(前掲書)と方向性を見出しました。そして生まれた油絵の烈しく感覚的な色彩表現はフォーヴィスムのようだと評されることもあります。
師匠をとるとその師匠以上にはなれないと考え、教えを乞うことなく板画の道を突き進んだ棟方。一作品の大きさや見せ方、技法や表現で版画の常識を打ち破っていきましたが、一方で生涯にわたり楽しんだ油絵はどのように変化したのか、年代順に並べ変遷を辿ります。バイタリティあふれる板画をあわせて展示しますので、作家にとって評価対象となる仕事とそれ以外の作品の相互作用や、それぞれの画面の強度などに注目してお楽しみください。
展示室O,P,Q|【特集展示】非日常の世界-岩井康賴、工藤哲巳、S.ダリ、豊島弘尚、成田亨
サルバトール・ダリ 「シュールな美食学」(版画集『シュルレアリスムの思い出』より)1971年
リトグフ、エッチング・紙 51.2×39.9
©Salvador Dalí, Fundació Gala-Salvador Dalí, JASPAR, Tokyo, 2026 E6269
工藤哲巳《カゴの中のカゴの中のカゴ》1976年
鳥籠、綿、プラスチック、ポリエステル、絵具 16.5×23.0×21.0
© ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2026 E6269
特集展示「非日常の世界」では、サルバドール・ダリと青森の作家の作品に共通する手法をご紹介します。
20世紀を代表する画家ダリは、1930年代、シュルレアリスムという芸術運動に加わります。当時、ダリが強迫観念的な幻覚や妄想の中で変わるイメージを意識的に表したことは、シュルレアリスムのグループから高く評価されました。後にダリは追放されますが、生涯にわたり斬新な作品を描きました。1971年の連作『MEMORIES OF SURREALISM』のうち、《Surrealistic Gastronomy》では、頭が蛾、身体が人間の女性像が描かれています。異質なものの組み合わせは、成田亨も怪獣のデザインで行っていました。例えば、《Cicadaman》や《Alien Baltan》では、頭がセミ、身体が人間の怪獣が描かれています。つなぎ目は自然であり、形に無駄な要素はありません。怪獣でありながら整った姿をしていることに気づかされます。
他に、本章では、身体の一部を切り離すことで生じる効果もご紹介します。ご注目いただきたいのは、ダリの《the Eye of Surrealistic Time》、工藤哲巳の《Cage in the Cage in the Cage》(1976)、豊島弘尚の版画集《Cry》(1994)です。いずれも異なる目的で制作されましたが、目玉が重要な役割を果たしています。中には暴力的に見えるものもあるかもしれません。とはいえ非日常的な場面は、平和な日常の意味や価値を問い直す働きがあるのではないでしょうか。
展示室H|ヨブ記-ウィリアム・ブレイク
ウィリアム・ブレイクは、イギリスにおけるロマン主義運動*の先駆的詩人として知られ、一方で、当時活躍していた画家の複製銅版画などをつくる彫版師として働き、また、自らの作品も制作した美術家でもありました。
彼は、中世の装飾写本にならい、詩(文)とイメージ(画)が結びつき一体となった独創的な世界を、水彩画や版画などで表現しました。生前はその難解で神秘的な作品世界を理解する人は少なく、ブレイクは狂人扱いされたといわれています。日本では明治期に彼の詩集がはじめて訳され、大正期に入ると白樺派の文芸誌や展覧会等において絵画作品とともに紹介され、文学者のみならず、当時の日本の美術家たちにも大きな影響を与えました。
本作は、旧約聖書の「ヨブ記」を題材にした22枚からなる銅版画の連作です。「ヨブ記」は信仰心にあつく、道徳的にも非の打ちどころのない生活を送ってきた人間ヨブに対して、神がサタン(悪魔)からの挑戦を受けるかたちで次々と過酷な試練を与える内容で、「信仰とは何か」を問う示唆に富んだ物語として、現在もなお多くの問いを投げかけています。
ブレイクは、この深遠で魅惑的な物語をエングレーヴィングという銅版画の一技法を使って表現しました。エングレーヴィングは、銅版に「ビュラン」という鋭い刃先をもった彫刻刀を使って線を刻んでいくため、細かい線による描写が可能になります。彫版師として培われた卓越した技をもって、彼だけが見ることのできた幻想をリズミカルで美しい線に刻み、見るものの想像力をかき立てる小宇宙をつくり出したのです。
*18世紀末~19世紀にかけてヨーロッパでおこった芸術運動。理性や形式を重視した古典主義にたいして、個人の内面や精神世界に目を向け、自由な表現を追求した。
展示室F,G|Over the Rainbow (虹の彼方に) ―奈良美智と杉戸洋の共作を中心に
奈良美智+杉戸洋《Shi-Ma》2004年
アクリル絵具・キャンバス 80.0 x 65.0cm
作家蔵
国内外で活躍する青森県出身の美術作家・奈良美智は、孤独に佇む鋭い眼差しの子どもの絵画や、ユーモラスでありながらどこか哀しげな犬の立体作品で、国や世代を超えて多くの人々の心を捉えてきました。青森県立美術館では、開館前の1998年から奈良の作品を収集し始め、現在、その数は170点を超えます。
2025年の春、奈良美智の最初期の貴重な油彩画『カッチョのある風景 A Landscape with “Kaccho”』(1979年)が当館に寄贈されました。寄贈者は画家で、現在、東京藝術大学美術学部の教授も務める杉戸洋。杉戸は、奈良が愛知県立芸術大学在学時代にアルバイトで講師を務めていた予備校の教え子で、同大学の後輩にもあたります。『カッチョのある風景』は、ある経緯で杉戸が長年大切に保管してきたものでした。
師弟関係にある二人ですが、杉戸が画家として活躍するようになってからも、良き友、そして時にライバルとして、親密な交流は続きます。2004年にはウィーンで数ヶ月間にわたる滞在制作を一緒に行い、その時の共同制作は「Over the Rainbow」と題されたドイツでの展覧会で発表されました。
今回は奈良自身の作品とあわせて、奈良と杉戸の共作もご紹介します。「絵画」という古典的な形式にこだわりながら、独自の創造世界を追求する二人の表現が、一つに結像した時に浮かび上がる「虹の彼方」の風景をお楽しみください。
通年展示 アレコホール| マルク・シャガールによるバレエ「アレコ」の舞台背景画
青森県立美術館の中心には、縦・横21m、高さ19m、四層吹き抜けの大空間が設けられています。アレコホールと呼ばれるこの大きなホールには、20世紀を代表する画家、マルク・シャガール(1887-1985)によるバレエ「アレコ」の背景画が展示されています。青森県は1994年に、全4作品から成るバレエ「アレコ」の舞台背景画中、第1幕、第2幕、第4幕を収集しました。 これらの背景画は、帝政ロシア(現ベラルーシ)のユダヤ人の家庭に生まれたシャガールが、第二次世界大戦中、ナチス・ドイツの迫害から逃れるため亡命していたアメリカで「バレエ・シアター(現アメリカン・バレエ・シアター)」の依頼で制作したものです。大画面の中に「色彩の魔術師」と呼ばれるシャガールの本領が遺憾無く発揮された舞台美術の傑作です。 残る第3幕の背景画《ある夏の午後の麦畑》は、アメリカのフィラデルフィア美術館に収蔵され、長らく同館の西側エントランスに展示されていましたが、このたび同館の改修工事に伴い、4年間の長期借用が認められることになりました。青森県立美術館での「アレコ」背景画全4作品の展示は、2006年の開館記念で開催された「シャガール 『アレコ』とアメリカ亡命時代」展以来です。背景画全4作品が揃ったこの貴重な機会に、あらためてシャガールの舞台美術作品の魅力をお楽しみください。
★フィラデルフィア美術館所蔵の第3幕は、長期の借用となるため、函館税関からアレコホールを保税展示場とする許可をいただいて展示しています。 アレコホールへのご入場には、コレクション展もしくは企画展の入場チケットが必要です。