開催中の美術館南側にぎわい創出プロジェクト「the south side プロジェクト」についてお話しするシリーズ。2回目の今日は、現在、地下1階で開いているもぎ店「津軽の味・喫茶部 レモン」についてです。
青森県立美術館の敷地に隣接する青森県総合運動公園の入口に一軒の食堂がありました。名前は「津軽の味・食堂部」。戦後まもない時期に青森市新町で創業し、60年以上にわたり営業を続けてきた食堂です。新町から現在の場所に店舗が移転したのは、昭和38年。運動公園の建設工事が始まったのとほぼ同じ時期でした。
運動公園の歴史とともにあゆんできたとも言えるこの食堂ですが、今年6月末に店主・工藤嘉巳(よしみ)さんが急逝したことで、閉店を余儀なくされました。
競技で運動公園にやってくるスポーツマンたちはもちろん、タクシーの運転手さんから、近所の子供たちまで、広く地域の人々に愛されたこの食堂。青森市民の中には、青春時代、運動公園での試合に勝った喜びや負けた悔しさとともに、ここですすったラーメンの味をおぼえている人もきっといることでしょう。
長年営業を続けるこの店には、少年時代に通いつめていた子が、大人になって自分の子どもを連れて訪れることもたまにありました。店主の工藤さんは、そんな再会を何よりも喜びとしていました。
5年前に青森県立美術館が開館してからは、食堂は熱心な美術館のサポーターとなってくれました。展覧会のチラシをラミネート加工した上で、一台一台のテーブルの上に置いてくれたり、美術館への進路の案内看板を出してくれたり、平成21年に企画展「ラブラブショー」を開催したときは、「ラブラブラーメン」という特別メニューまで開発してくれたのです。
今年3月に起こった東日本大震災を通じて、コミュニティの絆の大切さを思い知らされる昨今、「津軽の味・食堂部」の地域に根ざした営み、そしてそれを可能にしていたお店のたたずまいに、あらためて目をむけてみたいと考えました。
店主と二人三脚で店をきりもりしてきたパートナー・栄子さんのご協力を得て、食堂内にあった一部の装飾品をお借りして「レモン」店内を飾りつけました。また目玉メニューの「“あおもり犬”ホットドッグ」は、店主の工藤さんがアイデアを抱き続けていたものでした。
「津軽の味・食堂部」が私たちにくれたあたたかい時間を、ここで少しでも再現できたら、と思っています。
*もぎ店の営業は10/10までの土、日、祝日となっております。残すところあと4日となりましたので、ぜひご都合つきましたら、ご来店くださいませ。