今、美術館の地下2階に展示されている「ニュー・ソウルハウス」は、ちょっと洗濯物にも似た、色とりどりの旗で飾られている。これらの旗は先日開催したワークショップ「自分の居場所に旗を掲げてカレーを食べろ!」に参加した皆さんが作ってくれたもの。
アーティスト・奈良美智氏とともに「ニュー・ソウルハウス」を作り上げたクリエイティブ集団graf(グラフ)の豊嶋秀樹氏を講師に迎えた、この少々風変わりなワークショップが行なわれたのは3月2日のこと。
すべては、地下1階のワークショップB室で、豊嶋氏のオリジナルレシピに基づいた「津軽のリンゴとはちみつトロ~リとけてヒデキ感激!!青森カレー」を作ることから始まった。参加者の皆さんは、理由を問う暇もなく、包丁やザルを渡され、料理に突入。リンゴをすったり、ジャガイモを切ったり、肉を炒めたり。玉ねぎのみじん切りで涙を流す参加者を前に、「涙あり、笑いありのワークショップやな、ハハッ」と豊嶋氏。女性の参加者が多かったせいか、調理はとてもスムーズに進んだ。
具を鍋で煮込み始めたところで、今度は、地下の展示室に移動。
「ニュー・ソウルハウス」の前で、豊嶋氏はこれまでの創作活動を振り返りながら、自分たちの居場所は自らの手で作り出すもので、自分たちの場合はそれが「小屋」という形になった。今度は、皆さんそれぞれに、自分の居場所を象徴するものとして旗を作ってもらおうと思う、そして万「国」旗ではなく万「人」旗にしよう、と語った。
豊嶋氏の話を聞きながら、皆さまざまな思いを胸に展示室を離れ、いざ旗作りのためにワークショップA室へ。
Tシャツ、手ぬぐい、毛糸など、自由に持ってきてもらった材料で、旗作りが始まった。思い切り良く布に絵具で色を塗る人、ハギレを細かく縫い合わせる人、思い思いのやり方での旗作り。時間が約1時間半と短かったせいもあり、皆さん、無口になってしまうほど作業に集中していた。
午後5時、美術館は閉館。それぞれ出来上がった旗を手に、人気のない展示室へ。
豊嶋さんが脚立に上がり、「ニュー・ソウルハウス」の壁や柱に手際よく紐を経巡らせ、旗を一つ一つ吊るしていく。
「大丈夫。小屋の包容力ってすごいから」。旗作りの前、そう話していたっけ。なるほど、どの旗もなぜかとてもしっくりと小屋になじみ、前からそこにぶらさがっていたようだ。全員の旗を吊り終えたとき、自然と拍手がわきおこった。
一人ずつ自分の作った旗の前に立ち、自己紹介と旗自慢。どの旗にも深い深い思いが込められていた。
午後6時半。ちょうどよくお腹がすいてきた。皆そろって、カレーの待つコミュニティホールへ。このホールには豊嶋氏が所属するgrafの作ったテーブルとイスが置かれている。「津軽のリンゴとはちみつトロ~リとけてヒデキ感激!!青森カレー」は、とてもスパイシーでちょっと甘かったけど、皆は、そして秀樹は感激しただろうか。
午後2時から8時まで、まるまる6時間続いたこのワークショップ。
だが、アンケートでは「あっ、という間だった」という感想がいちばん多かった。特に何が上手くなるでも、何を学ぶでもないけれど、豊嶋秀樹と過ごしたとても濃厚で、どこか甘い時間、それはちょっぴり「津軽のリンゴとはちみつトロ~リとけてヒデキ感激!!青森カレー」の味に似ていた。