会期:12月17日(土) - 3月25日(日)

展示の見どころ

特集コーナーでは、秋のコレクション展に引き続き、「縄文/創造の原点から」と題し、棟方志功や戦後の前衛芸術家である工藤哲巳や小野忠弘など、青森県ゆかりの作家たちの造形表現に縄文の精神との共鳴をみながら、創造の原点と芸術の役割について考えます。また、今年7月29日に逝去した弘前市出身の日本画家・工藤甲人の追悼企画として、故郷・津軽を創造の源として心に宿し続けた画家が創り上げた豊かな美の世界を振り返ります。さらに、近年全国的な注目を集めている青森市出身の写真家・小島一郎の生涯の活動を、オリジナルプリントや資料に加え、青森市教育委員会所蔵の貴重な生前の個展出品作をまじえてご紹介します。

棟方志功「両妃散華の柵」
棟方志功「両妃散華の柵」
1951年(1963摺)
棟方志功記念館蔵
工藤甲人「休息 (冬) 」
工藤甲人「休息 (冬) 」
1975年
小島一郎 つがる市稲垣付近
小島一郎 つがる市稲垣付近 
1960年 個人蔵


各展示室紹介


【特集】縄文/創造の原点から

棟方志功展示室 | 棟方板画の世界-原始の生命

棟方志功は、舞い踊る神仏や天女の姿を大画面いっぱいに描き表し、数々の大作を生み出しました。躍動感あふれる作風には原始のエネルギーが感じられます。
代表作《湧然する女者達々》 (1953年) は、経典の世界を6人の裸婦の姿で表現した作品ですが、裸婦たちは大胆に胸が誇張され、土偶を思わせるようなどっしりとした重量感ある姿態で表現されており、生命力に満ちあふれています。また、《両妃散華の柵》 (1951年) では、縄文土器を思わせるような装飾性に富んだ文様が彫り込まれ、力強い原始の美が感じられます。
棟方は「木の魂を生み出したい」、「板の声を聞く」として、自身の作品を「版画」ではなく「板画」と呼び表しました。絵を版画にするのではなく、板から絵を生み出したのです。あふれる生命力を表現し続けた棟方の芸業に太古の美の系譜を探ります。

展示室H | 音に触れる -原初の響きとその形-

鉄の溶断という最小限の加工による素材感を活かした造形表現で知られる金沢健一は、視覚的な造形性と音とを根源的に結びつける彫刻作品を手がけてきました。
鉄板を不規則に溶断し、ひび割れが生じたかのような形状を見せる〈音のかけら〉のシリーズや鉄板を振動させることにより生じる音の痕跡を見ることのできる〈振動態〉のシリーズを紹介しながら、金沢の鉄を素材とする音と形の原初的な響きや造形の中に、縄文時代の精神世界との共鳴を見出します。

展示室J | 物と大地の魂 ~小野忠明・忠弘

弘前市出身の小野忠弘は廃品を利用したジャンク・アートの第一人者として、ヴェネツィア・ビエンナーレに出品するなど、世界的にも高く評価された前衛のアーティストです。福井県の三国町に居を定め、教鞭をとるかたわら、古美術や考古学にも造詣が深く、同地の文化財審議委員などもつとめていました。
小野忠弘の兄の小野忠明もまたアーティストであると共に、考古学者として様々な発掘に携わりました。青森市に居をさだめた戦後は、この美術館の周辺の近野遺跡の発掘調査などにも携わっていますが、戦前は、当時日本の併合下にあった朝鮮半島で発掘調査に取り組んでいました。高句麗壁画などの発掘の経験は、戦後の抽象的な版画作品の地を思わせるような独自の色彩などに反映しています。
ともに考古学を愛した兄弟が大地に見出した魂の表現を18点の作品で紹介します。

展示室K | 儀礼としての身体 ~工藤哲巳と縄文

工藤哲巳は五所川原出身の画家工藤正義の長男として生まれ、戦後の日本美術に新しい流れをつくった「反芸術」のホープとして活躍しました。
工藤は晩年、自身のルーツとしての津軽にこだわり、縄文をテーマとした作品も制作していますが、初期の作品から一貫してみられる土俗性、装飾性と、グロテスクな表現の奥に感じられる、宗教的と思える透徹した精神性には、彼の中の縄文の遺伝子の存在を強く感じさせます。工藤の約15点の代表作がならぶ空間に、三内丸山遺跡からの出土品を点在させながら、その類縁性を浮彫にします。

展示室L | 森とカオスの使者たち ~成田亨と高山良策

戦後の日本文化が生み出したユニークな造形表現である成田亨のウルトラ怪獣たちは、「コスモス(秩序) 」を体現するヒーロー、ウルトラマンと対比され、より荒々しく原初の力にみちた「カオス(混沌) 」を体現する存在としてデザインされました。成田は後に中央の権力におわれた「まつろわぬもの」としての鬼の研究に没頭していきます。
また、成田のデザインを着ぐるみとして立体化したシュルレアリスムの画家、高山良策は、特撮怪獣の仕事を手がけて以降、異形の人物や事物が登場するSF的な作品を描いていますが、いくつかの作品では縄文をテーマにし、森の中、太古の儀礼を行う異形の集団として描いています。
戦後、経済が復興し、発展とともに、社会が急速に変貌していく中で、縄文の造形がかきたてた様々な夢想は、物質文明へのアンチテーゼであり、また失われていく野性への郷愁として、成田や高山の造形に影響をあたえているのではないでしょうか。
成田亨の20点の怪獣デザイン画と高山良策の2点の油彩画を三内丸山遺跡からの出土品とともに展示します。


[小企画1] 追悼 工藤甲人

展示室M, N | 追悼 工藤甲人

第一章 聖鳥・枯葉・冬蝶

故郷、津軽を創造の源泉として独自の作品世界を築き、日本画に斬新な表現を切り開いた工藤甲人。今年7月、96歳の誕生日を迎える前日に逝去するまで、その創作意欲は衰えなかったといいます。
弘前の農家に生まれ、身近な自然の小さな草花や生き物、或いは家の中の畳の目や壁のシミをじっと見つめて想像の世界に遊び、詩や文学に熱中した少年は、やがて画家を目指して上京し、働きながら絵を学んで新進画家として頭角を現します。戦争により召集を受け、戦前の作品は失われてしまいますが、終戦後、故郷で農作業に従事しながら再出発を期して創作を再開します。
工藤は生前、かたつむりに心を寄せ、殻を背負って急がず慌てず、しかし確実に前進して自ら退くことのない姿に自身を重ねて、アトリエを〈蝸牛居〉と名付けていました。80年近くに及ぶ画業のなかで生み出された、夢と覚醒のはざまを漂う美の世界を画家自身の言葉とともにご紹介します。

第二章 春を待つ

工藤は、しばしば「闇」について語っています。心の深いところに横たわる「闇」。「底なし沼のような」、或いは心の中に沈んでいる「混沌とした湖」のような領域の底に横わたる「何とも得体のしれないもの」などと表現されるそれは、虚ろな暗闇ではなく、創造の源となる「原初の闇」ともいえるものです。闇から生まれたイメージを光の中へ解き放ち、心の奥から生じてきたものを一度自然の中へと送り出して育み、再び自分の元に帰ってきたそれらを紙の上に実体化させる。そこから工藤の創作が始まるのです。
工藤は又、深い雪の中で長い冬に耐えながら春を待ち、春を恋う想い、そして春の訪れに感じる生命が湧き上がるような喜びを繰り返し語っています。
代表作の一つである四季四部作が、「春」ではなく「冬」から始まっているように、工藤の作品は、北国に生まれた画家の精神に深く刻まれた冬ごもりの記憶、喜びの春を待つ心から生み出されたものなのです。
出品点数: 日本画、小下図等 約15点


[小企画2] 小島一郎:都市と地方のはざまで

展示室P, Q | 小島一郎: 都市と地方のはざまで

近年全国的な注目を集めている青森市出身の写真家・小島一郎。遺族から当館に寄託されている3,000点以上におよぶ作品と資料の中から代表作を選び出し、小島一郎の生涯の活動を展観いたします。また、今回は青森市教育委員会のご協力を得て、写真家の第二回個展「凍ばれる」に出品されたパネル写真もあわせて展示いたします。
出品点数: 小島一郎オリジナルプリント、名刺大写真のアルバム等 約50点


その他常設展示

アレコホール | マルク・シャガールによるバレエ「アレコ」の背景画

ロシア生まれのユダヤ人で、20世紀を代表する画家であるマルク・シャガール(1887-1985)は、1942年、亡命先のアメリカで、バレエ「アレコ」のための舞台美術を手がけます。その時に生み出された縦約9m、横約15mの舞台背景画が、青森県立美術館の中央に位置する「アレコホール」に展示されています。
バレエ「アレコ」は全4幕から成りますが、当館に収蔵されているのは、第1幕「月光のアレコとゼンフィラ」、第2幕「カーニヴァル」、第4幕「サンクトペテルブルクの幻想」の3点。バレエの原作であるロシアの文豪・プーシキンの叙事詩に基づきながらも、満月の夜空に浮かぶ恋人たちやバイオリンを弾く熊、闇夜に駆け上がる白馬など、シャガールらしい想像力がいかんなく発揮された大作です。4階吹き抜けの大空間を満たす、「色彩の詩人」シャガールの世界を、心ゆくまでお楽しみください。

展示室F | 奈良美智:「Hula Hula Garden」、「ニュー・ソウルハウス」

青森県弘前市出身の奈良美智 (なら・よしとも) は、弘前市の高校を卒業後、東京と名古屋の大学で本格的に美術を学び、1980年代半ばから絵画や立体作品、ドローイングなど、精力的に発表を続けてきました。青森県立美術館は、1997年から奈良美智作品の収集をはじめ、現在その数は150点を越えます。
『Hula Hula Garden』と『ニュー・ソウルハウス』という2点のインスタレーション (空間設置作品) を中心に、奈良美智の世界をご紹介します。

展示室G | 寺山修司:青少年のための寺山修司入門

寺山修司が活躍した1960~70年代はいわゆるアングラ文化が全盛の時代でした。高度成長によって近代化が急速に進む一方、社会的な構造と人間の精神との間に様々な歪みが生じ、そうした近代資本主義社会の矛盾を告発するかのように権力や体制を批判、従来の価値観を否定していく活動が盛んとなっていったのです。特に寺山は大衆の興味や関心をひきつける術に特異な才能を発揮しました。演劇や実験映画ではそれが顕著で、演劇、映画のあらゆる「約束事」が否定され、感情や欲望を刺激するイメージで覆い尽くされた寺山の斬新な作品は多くの人々を虜にしていきました。
このコーナーでは、寺山が主宰したアングラ文化の象徴とも言うべき「演劇実験室◎天井棧敷」のポスター18点と、豊かなイメージの世界を描いた数々の実験映画を、寺山の片腕として活躍した森崎偏陸による編集によって紹介いたします。

展示室O | リチャード・ロング:白神山地を歩く

ロングは、1997年5月末、世界遺産・白神山地に青森県側から入山し、8日間にわたり単独歩行しました。この「歩行」の中で、フォトワーク『白神山地歩行シリーズ』が生み出されました。「青い森の歩行」、「キャンプ地の石」、「初夏の円環」、「白神の線」、「白神の円環」の5点からなるこのシリーズは、作家自身がそこに存在したことを示すわずかな痕跡を含んだ風景写真と短いテキストから成っています。
白神山地下山後、作家は「白神で自分の存在は地を這う小さな虫のようなはかないものだった」と語ったと伝えられています。あらゆる人為の影響を免れた世界最大のブナの原生林の中に、きわめてひそやかに残された人為の造形。それは、一方で周囲の自然に対する限りない畏敬の念の表れでありながら、他方では、その大いなる自然を前に、はかなく消え入りそうになる自らの存在をつなぎとめようとするささやかな抵抗の表れでもあります。

展示室I | 斎藤義重:思考する板

絵画や彫刻といったジャンル分けを超えた独自の表現を追求した斎藤義重(1904-2001)。 1960年代以降は、電気ドリルを使って合板に線を刻んだ連作を発表することで作品の物質性に重点をおき、1970年代末からは空間を取り込んだ立体作品へと移行していきました。後期作品の重要な素材である板 (主にスプルース材) の幾何学的な構成による作品「柵木」を、展示室の空間全体を使ったインスタレーションで紹介します。


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