春の便り
会期:2018年3月10日(土)-5月6日(日)


雪深く長い冬が終わると、北国にも待ち焦がれた春が訪れます。青森県立美術館のコレクションから、花開き、緑芽吹き、水温み、生き物たちが動き出す春の息吹をお届けします。

また、同時期に開催する企画展「シャガール - 三次元の世界」展に合わせ、当館が誇る西洋版画コレクションの名品を特集展示するとともに、シャガールによるバレエ「アレコ」背景画全4作品を舞台用の照明と音楽、ナレーションとともにご覧いただく特別鑑賞プログラム(約15分)を実施します。


出品作家

石井康治、菊地敦己、工藤甲人、須藤尚義、蔦谷龍岬、成田亨、野澤如洋、橋本花、棟方志功


通年展示


春の便り

展示室N:棟方志功と青森の日本画家

棟方志功は「忘れえぬ人々」(『板極道』所収)のなかで二人の郷土の日本画家の名を挙げています。一人は弘前出身で東京美術学校に学び、大正から昭和前期にかけて文展・帝展で活躍した蔦谷龍岬(1886-1933)、もう一人はやはり弘前出身で、明治中期に竹内栖鳳と並び称されるほどに京都画壇で頭角を現し、その後中国や朝鮮半島さらには欧米を漫遊するなど型破りで奔放な画家として知られた野澤如洋(1865-1939)です。棟方志功は、蔦谷龍岬については横山大観に次いで好きな画家であるとし、野澤如洋については「一本の筆で、濃淡、疎密、自由自在に万物を捉え」る天才であると最大限の賛辞を贈っています。今回はこの二人の春に因む主題の作品を選び展示します。
田舎館村生まれの須藤尚義(1902-1956)は蔦谷龍岬の画塾鐸鈴社に学び、初期は龍岬譲りの大和絵風の繊細な作品で帝展に入選を果たしていますが、龍岬没後は川端龍子の青龍社に加わり、戦後は中村岳陵に師事して日本美術院展に出品しました。


  • 蔦谷龍岬 《春の装い》
    制作年不明
    彩色・絹

棟方志功展示室:宙を舞う

1929年夏、八甲田山中(青森市)の酸ヶ湯温泉に滞在していた棟方は、仙人と称されるほど八甲田山中を良く知る鹿内辰五郎氏の案内で八甲田大岳に登りました。その途中、両翼に見事な円い紋を持つ鷹を見たことがきっかけで鷹に神性を感じたといいます。その時のことを棟方は自著『板散華』の中で次のように記しています。「日本晴れした真っ青な天空を傘にして、八甲田山の頂上から真上に見仰いだ御鷹の、両翼に伝説の真紅(しんく)の日の丸が判然と見えたと言うて、五十何年前の山男生活中、唯この一度の『拝み』だと言って、何時までも何時までも瞑目合掌していた辰五郎の後姿が、霧にぼかされて包まれて仕舞ったことを想いだす。」この出来事以後、鷹は棟方にとって故郷青森を象徴するものとなり、鷹をモチーフにした作品を数多く制作するようになりました。
また、棟方は飛天する女人像をテーマにした作品も多数制作しています。天に飛び、様々なポーズをとる女人たちは、若さと健康にあふれた生命の充実感をそなえ、天女となり、女神となり私たちを魅了します。
このたびは「宙を舞う」をテーマに棟方が描いた鷹をはじめとする鳥や、飛天する女人像を描いた作品を中心に紹介します。


展示室P:菊地敦己 ファッションブランドのためのデザイン

菊地敦己(1974- )は、青森県立美術館のVI(ヴィジュアルアイデンティティー)計画を担当するアートディレクター/グラフィックデザイナーです。美術館全体の体験をイメージとして伝達していくことを意図してデザインされたシンボルマークやロゴタイプ、サイン等は美術館の建物や周囲の環境と調和しながら独自の景色を作り出し、開館以来多くの来館者に親しまれています。
菊地は、美術やファッション、建築などの分野のグラフィックデザインを多く手がける他、グラフィックデザインそのものを考察する作品制作や発表も行っています。
今期の展示では、2つのファッションブランド「ミナ ペルホネン」「サリー・スコット」のために制作されたポスターを紹介します。


展示室Q:成田亨 怪獣デザインの美学

成田亨は、「ウルトラマン」、「ウルトラセブン」という初期ウルトラシリーズのヒーロー、怪獣、宇宙人、メカをデザインし、日本の戦後文化に大きな影響を与えた彫刻家兼特撮美術監督です。
武蔵野美術学校研究科に在籍していた1954年、成田は人手の足りなかった「ゴジラ」の製作に参加、そこで円谷英二と出会い、以降特撮美術の仕事も数多く手がけるようになります。1965年、東宝撮影所で円谷英二と再会し、「怪獣のデザインはすべて自分がやる」という条件のもと「ウルトラQ」の2クールから制作に参加、以降「ウルトラマン」、「ウルトラセブン」までのシリーズに登場するヒーロー、怪獣、宇宙人、メカニック等のデザインを手がけます。放映に際し、「これまでにないヒーローの形を」という脚本家・金城哲夫の依頼を受けた成田は、ウルトラマンのデザインを純粋化という「秩序」のもとに構築し、対する怪獣のデザインには変形や合成といった「混沌」の要素を盛り込んでいきます。
美術家としての高い感性によってデザインされたヒーロー、怪獣は、モダンアートの成果をはじめ、文化遺産や自然界に存在する動植物を引用して生み出される形のおもしろさが特徴です。誰もが見覚えのあるモチーフを引用しつつ、そこから「フォルムの意外性」を打ち出していくというその一貫した手法からは成田の揺らぐことのない芸術的信念が読みとれるでしょう。


  • 成田亨 《ジャミラ》
    1966年
    ペン、水彩・紙

展示室M:工藤甲人=春の訪れ

青森県中津軽郡百田村(現、弘前市)の農家に生まれた工藤甲人(1915-2011)(本名は儀助)は1934年に上京、翌年から川端画学校日本画科で岡村葵園に学んでいますが、またこの頃当時日本でも美術雑誌や展覧会で盛んに紹介されていたシュールリアリスムに関心を持ち始めます。日本画の革新を目標に福田豊四郎らが結集した新美術人協会展への出品を契機に福田の研究会に入りその影響を強く受けます。太平洋戦争時には兵士として中国戦線に送られ1945年に復員すると戦後は郷里で農業に従事しましたが、師と仰ぐ福田の呼びかけで制作を再開、創造美術やその後継である新制作派協会日本画部に出品し、1951年にはヒエロニムス・ボッシュの作品を想わせる《愉しき仲間》で同協会の新作家賞を受賞するなど加山又造などとともに同展の有力な新進作家として活躍をはじめ、1962年には弘前から神奈川県平塚市に制作の場を移しました。北国の自然のなかで育まれた感性を基に、今回展示されている《山野光礼賛》や《瑠璃光》にみられるように、宗教的とも評される夢幻的で甘美な絵画世界を展開し、日本国際美術展や現代日本美術展などで受賞を重ねました。また東京藝術大学教授や沖縄芸術大学客員教授として後進の指導に当たり、2007年には当館で大規模な回顧展「工藤甲人展―夢と覚醒のはざまに」を開催しています。


  • 工藤甲人 《瑠璃光》
    制作年不明
    着彩・紙

展示室L:石井康治:詩・季・彩 - 春が来た

「色ガラスを用いて自分のイメージを詩のような感じで作りたい。」
石井康治は、1991年、今、県立美術館が建つ場所に程近い、青森市三内に工房を構え、1996年に急逝するまで、この地で精力的にガラスの素材と技法について研究を重ね、青森の四季と風土を彩り豊かなガラス作品にうつし取っていきました。
青森の自然に魅せられた石井の制作は、ドローイングやデッサンなどで自然を写生することからはじまり、工房で熱したガラスを中空の棹に巻き取り、息を吹き込んで膨らませ、そこに選び抜いた色ガラスを溶着させ、イメージしたかたちを作りあげていきます。光と風が織りなす北国の四季から受けたインスピレーションは、繊細な感性と優れた造形感覚、そして確かな手の技に裏打ちされつつ、自然との対話、ガラスという素材との対話を通して作品に結実していったのです。
自らの創作テーマを「詩・季・彩」という言葉で語っていた石井の作品は、彼が愛した青森の四季を謳う一篇の詩のように、私たちに語りかけてきます。石井がガラスで描き上げた四季から、今回は光と色彩、そして生命の息吹が一気に溢れ出す北国の春をテーマに紹介します。


  • 石井康治 《樹映―春の景》
    1995年
    ガラス、宙吹き
    青森県立美術館寄託
    撮影:大堀一彦

展示室J:春を彩る:橋本花の世界

青森市生まれの画家、橋本花(1905-1983)は、青森の女性画家の先駆ですが、その名のとおり「花」を得意とし、親密な共感にみちた花々を描いています。現在の女子美術大学に学び、在学中に当時最も権威のあった帝展に入選し、同じく帝展入選をめざしていた若き棟方志功らの憧れでもあった花は、晩年浅虫にアトリエをかまえ、身近な自然、中でも花々を題材に描きました。当時のインタビューで「キャンバスに向かっているときは、自分が花か、花が自分かわからなくなるときがある」と語っているように、対象に深く没入した独自の作品をのこしています。ここに展示した豊かな色彩であふれるばかりの生命力を感じさせる花の作品は、長い冬をのりこえた春のよろこびをつたえてくれます。
また、戦後の1961年にはサンパウロ日本文化会館の招きでブラジルを訪問し、サンパウロで個展を開催、その後も当地を題材に多くの作品を描きました。なかでも《カーニバル》は春を目前にした人々の心の昂ぶりを感じさせる作品となっています。


  • 橋本花 《カーニバル》
    1965年
    油彩・キャンバス

展示室I:「シャガール - 三次元の世界」展関連企画:ルドン、ピカソ、マティス、カンディンスキー、クレーの版画

マルク・シャガール(1887-1985)がパリで創作活動を始めた20世紀初頭の西洋では、近代における科学技術の発展や社会の急激な変化とともに、美術の世界でも大きな変革が起こっていました。
19世紀後半には印象派が登場し、光や大気の変化とともに刻々と移ろう身近な風景を画面に捉えようと試みます。画家たちは、アカデミックな権威や伝統が定める様式に基づいて事物や物語を描くのではなく、自身の感性によって捉えた世界や、人間の感覚や内面への深い洞察に基づく表現の創造を追求するようになります。20世紀に入ると、19世紀後半に生まれた画家たちが主役となり、より多彩な美術運動や個性的な作風を生み出していきました。
青森県立美術館が誇る西洋版画のコレクションから、変革のうねりの中で探求を重ね、独創的な作品世界を創造した巨匠たちの名品をご紹介します。


  • アンリ・マティス 版画集「ジャズ」より《ナイフ投げ》
    1947年
    ポショワール・紙

展示室H:アグロス・アートプロジェクト2017 明日の収穫〈種まき編〉 成果発表展示

「アグロス・アートプロジェクト 明日の収穫」は、県立美術館発の、農業とアート体験をかけ合わせた地域アートプロジェクトです。本プロジェクトにおいてアーティストと参加者は、美術館敷地内のお米や雑穀を育てる農園での農作業を体験、農園での収穫物をもとに一つの作品をつくります。実施期間は2年間で、平成29年度の収穫体験を通じて制作計画を立てる「種まき編」、翌30年度において計画に基づき作品を制作・展示する「刈入れ編」として進行します。
今回美術館で行うのは「種まき編」の成果を紹介する発表展示です。アーティストと24名余りの参加者による収穫作業や作品制作のために月1回程度開催された定例ワークショップをはじめとする様々な出来事を振り返るための農園での収穫物や記録写真、ドローイング、刺しゅう、交わされてきた言葉などで構成され、それらの結果として生まれた平成30年度に行う作品制作の計画についてもご紹介します。本展示の場は断片的なモノの集積に過ぎず、「展覧会」と呼ぶには早計かもしれません。しかしアーティストと参加者の学びと実践は、青森の大地の上で連綿と続いてきた営みにアートをつなぎ、来場者の心に青森の大地のための新しい「根」を予感させる「(アグロス)」となることでしょう。


  • 大小島真木 《アグロス・アートプロジェクト作品プラン図》
    2017年

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通年展示

展示室F、G:奈良美智 《Puff Marshie》《Hula Hula Garden》

国内外で活躍する青森県出身の美術作家・奈良美智(1959- )は、挑むような目つきの女の子の絵や、ユーモラスでありながらどこか哀しげな犬の立体作品などで、これまで若い世代を中心に、多くの人の心をとらえてきました。
青森県立美術館では、開館前の1998年から、絵画やドローイングなど、奈良美智作品の収集を始めました。現在、170点を超えるそのコレクションの多くは、奈良が1988年から2000年まで滞在したドイツで生み出されたものです。
この展示室では、当館がほこる奈良美智の90年代のコレクションを中心に、《Puff Marshie (パフ・マーシー) 》(2006年)や《Broken Heart Bench (ブロークン・ハート・ベンチ) 》(2008年)など、作家からの寄託作品も展示しています。


アレコホール:マルク・シャガールによるバレエ「アレコ」の舞台背景画

青森県立美術館の中心には、縦・横21m、高さ19m、四層吹き抜けの大空間が設けられています。アレコホールと呼ばれるこの大きなホールには、20世紀を代表する画家、マルク・シャガール(1887-1985)によるバレエ「アレコ」の背景画が展示されています。青森県は1994年に、全4作品から成るバレエ「アレコ」の舞台背景画中、第1幕、第2幕、第4幕を収集しました。
これらの背景画は、帝政ロシア(現ベラルーシ)のユダヤ人の家庭に生まれたシャガールが、第二次世界大戦中、ナチス・ドイツの迫害から逃れるため亡命していたアメリカで「バレエ・シアター(現アメリカン・バレエ・シアター)」の依頼で制作したものです。大画面の中に「色彩の魔術師」と呼ばれるシャガールの本領が遺憾無く発揮された舞台美術の傑作です。
残る第3幕の背景画《ある夏の午後の麦畑》は、アメリカのフィラデルフィア美術館に収蔵され、長らく同館の西側エントランスに展示されていましたが、このたび同館の改修工事に伴い、4年間の長期借用が認められることになりました。青森県立美術館での「アレコ」背景画全4作品の展示は、2006年の開館記念で開催された「シャガール 『アレコ』とアメリカ亡命時代」展以来です。背景画全4作品が揃ったこの貴重な機会に、あらためてシャガールの舞台美術作品の魅力をお楽しみください。

★フィラデルフィア美術館所蔵の第3幕は、長期の借用となるため、函館税関からアレコホールを保税展示場とする許可をいただいて展示しています。
展示期間:2017年4月25日 - 2021年3月頃(予定)
アレコホールへのご入場には、コレクション展もしくは企画展の入場チケットが必要です。


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