2000年2月18日、応募作品393点。国内からの参加数としては史上最大規模の建築コンペとなった (仮称) 県立美術館設計競技 (審査委員長:伊東豊雄) において、青木淳氏が最優秀の栄冠に輝きました。

伊東豊雄審査委員長講評

393案という国内コンペティション史上稀にみる応募作品の優れたアイデアと膨大なエネルギーに圧倒されました。私共審査員一同この膨大なエネルギーを受けとめ、最後は1点にしぼるという作業は極めて困難な仕事でした。
このように多数の方が応募されたのは、この経済不況の中で果敢にオープンコンペティションを企画され、しかも新しいタイプの美術館をつくろうという青森県の意欲が応募要項に盛り込まれ、応募者に伝わったからだと思われます。とりわけ木村知事の100年先を見据えた美術館という志が反映されたからだと思われます。
青森県はいま深い雪の中にありますが、日本の中でも極めて特異な位置を占めているように思います。つまり情報や交通のネットワークで世界と結ばれている、と同時にいまだに冬は雪に閉ざされた辺境の地と呼びうる地域性を強く感じさせるという点です。こうした二重性を持ち続けている、つまり独自の「場所性」を未だ持続している土地は我が国では極めて珍しいのではないでしょうか。今回の美術館のプログラムの新しさにも、この二重性が色濃く反映されています。
何故なら一方では、敷地が三内丸山という日本で最大の縄文遺跡に隣接していること、つまり青森の人々やその言語に感じられる内にこもったエネルギーと縄文文化との強い連鎖、そしてその表現者としての棟方志功等の芸術家、そうした土着的場所性をいかに建築で表現しうるのか、が問われています。
また他方では現代美術に関わるメディアセンター、コミュニティーギャラリーとしての新しさ、或いは調査、研究部門や若い芸術家の創造活動支援など「拡張された美術館」が問われてもいます。
この内側へ向かうベクトルと、外へ開くベクトルをいかにひとつの建築的表現に結実するかがこのコンペティションにおける評価基準でもありました。その意味では建築表現そのものが美術館の活動自体の表現でもなくてはならないと言えるのです。
最優秀作に選ばれた青木淳さんの提案はこの点を最も見事に表現されたように感じます。常設・企画ギャラリー棟とコミュニティギャラリー棟に分かれた2つのヴォリュームは、縄文ループに沿っていずれも低く押さえられています。地を這うような屋根は上部より大地へ向かって押しつけられているようであり、掘り込まれた「トレンチ」と称する空間は「発掘現場」のように土に囲まれた土そのものを意識させる「たたき」の空間です。地下から湧き上がる力、エネルギーと上部からそれを押さえ込もうとする力とのせめぎ合う内部がギャラリーであり、オーディトリアムであるのです。
アレコも若干小さめですが、暗いステージ空間の中に浮かび上がるような演出が施されています。建築自体を自然のランドスケープの中に沈み込ませながらも、力強いエネルギーがこもった空間を感じさせる個性溢れる提案です。透明なヴォリュームを表現する提案が多い中にあって、他にない独自の世界を描いている点が高く評価されました。但し「たたき」のつくり方や外部トレンチ空間における雪処理については今後の検討に負うところが大きいという課題も指摘されました。
最後まで最優秀作を競った藤本壮介さんの提案も実にすがすがしいオリジナリティを感じさせる提案でした。「弱い建築」を目指すという特異なコンセプトの下に小さく分節され、形態とレベルを少しずつ変えながら環状に連鎖する建築は樹々の間に埋もれてしまいそうな優しさを備えています。背伸びもせず、等身大に等身大の表現を求める藤本さんの意志が穏やかに、しかし明快に伝わってきます。それは強い「建築的」表現への批評となって我々にはね返ってくるように感じられました。しかし、今回よりももう少し規模の小さい美術館によりフィットするコンセプトではないかというのが審査員のコメントでした。
もう一つの優秀作となった千葉学さん+ファクターエヌアソシエイツの提案も明快でさわやかなプロジェクトです。キュービックなヴォリュームをえぐるようにかきとった大きなヴォイド空間には、角度やレベルを変えてアレコが展示され、わかりやすい空間構成を採っています。三内丸山遺跡と芸術パークを結ぶ中心に結節点としてさまざまな方向性を結びつけながら通り抜けられる美術館というコンセプトも新鮮に感じられました。但し石貼りのヴォリューム感と同時に半透明な皮膜性の双方を求める点に若干の疑問も感じられました。
以上が最優秀及び優秀作品に選ばれた3案に関する審査評です。佳作5作品に関する具体的なコメントはここではさし控えますが、いずれもそれぞれ異なるしかし明快なコンセプトで練り上げられたエネルギーに満ちた力作ばかりです。ここに用いられたコンセプトやエネルギーは必ず次の提案への力になると確信しております。また入選しなかった多数の作品には、実施してみたいと思わせる提案が多数含まれていたことも強調しておきたいと思います。
素晴らしい美術館の実現を期待しつつ審査講評にかえさせていただきます。