作品収蔵基本方針

美術資料の収集については、平成4年度に美術資料収集等基金を造成し、平成5年度には美術関係学識者によって構成される青森県美術資料収集評価委員会が設置され、収集を開始しました。平成17年3月末までに、作品、関連資料あわせて美術資料3,056点を収集しました。美術資料の収集にあたっては、「地域と風土に密着した芸術を重視するとともに、豊かな感性を養い、未来の創造に資することのできるような美術資料の収集を行う。」という収集理念のもと、

(1) 近・現代の青森県出身作家およびゆかりのある作家の優れた美術作品並びに関連資料
(2) 青森県以外の近・現代の美術状況に対応するために必要な優れた美術作品並びに関連資料
(3) 今に生きる県民の心の原点に関わり、未来に資する関連資料

という収集方針にもとづいて、収集を行っています。
そして、郷土の作家では、
阿部合成、小野忠弘、工藤甲人、工藤哲巳、小館善四郎、今純三、斎藤義重、佐野ぬい、関野凖一郎、高木志朗、鷹山宇一、蔦谷龍岬、豊島弘尚、奈良美智、成田亨、野澤如洋、橋本花、三国慶一、棟方志功、村上善男、など

県外の作家では、
秋山祐徳太子、荒川修作、池田龍雄、磯辺行久、今井俊満、岡本信治郎、恩地孝四郎、斎藤真一、篠原有司男、清宮質文、高松次郎、高山良策、立石紘一、鳥海青児、中村宏、難波田龍起、浜口陽三、平塚運一、山口長男、など

海外作家では、
カンディンスキー、クリンガー、クレー、コルヴィッツ、シュミット=ロットルフ、ピカソ、ブレイク、マティス、レンブラント、ルドン、ロング

といった作家の作品を収集してきました。
また、平成6年度には総合芸術パークのシンボル作品として、マルク・シャガールのバレエ「アレコ」のための舞台背景画3点を取得しました。
さらに、平成7年度には京都出身の人間国宝の陶芸家近藤悠三の代表作94件(150点)の寄贈をうけ、収蔵しています。
それでは、以下に、主な分野ごとの概要をご紹介します。

日本画

現在、日本画は明治以降に活躍した郷土の作家を中心に約400点の作品を収蔵しています。津軽最大の画家と称された野澤如洋、近代大和絵の系譜につながる蔦谷龍岬、四條派を学び動物画をよくした高橋竹年、戦後青森の日本画壇をリードした須藤尚義、寺崎広業門下の塾頭までつとめながら晩年は新郷村のキリスト伝説の研究に没頭した異端の画家・鳥谷幡山、幻想的で詩情あふれる作風を特徴とする工藤甲人らの作品群が基礎的なコレクションです。
中でも核を形成しているのが野澤如洋と工藤甲人。如洋は、 第1回文部省展覧会の審査員要請を固辞するなど、常に画壇からは距離をおき自らの信じる芸術性を真摯に追求した作家。 気韻生動の理念に基づく水墨技法を駆使して、山水、人物、花鳥といったあらゆる画題を描きあげ、自然の本質と作家の内面性・精神性を融和させた格調高い作品を多く手がけました。また一方、速筆の名手としても知られ、膨大な数の席画も残しています。
工藤甲人は、創造美術、新制作協会日本画部、創画会という一貫した流れの中に身をおき、世界に通じる現代絵画としての日本画を探求するこの会の特徴を明確に示す作品を精力的に発表。北国の自然に着想を得つつ、大胆かつ繊細な造形感覚と、素朴かつ洗練された色彩感覚によって自己の心情を仮託させた詩的な心象風景は、多くの人の心を捉えて離しません。
今後は、こうした郷土ゆかりの作家を軸にしながら横の広がりを追えるコレクションづくりを目指していきたいと考えています。

洋画

洋画に関しては、青森県出身の作家を中心に約500点の作品を収集しています。阿部合成は、中でも代表的な画家です。合成は、浪岡町に生まれました。旧制青森中学では、大宰治の同級生で、彼との交友は長くつづき.大宰の短編「親友交歓」の登場人物のモデルとも言われています。戦前の大作として二科会で特選を得た「見送る人々」(兵庫県立美術館蔵)がありますが、戦後は表現主義的と評される激しい色彩とたたきつけるようなタッチの作品を数多く描きました。
本県の洋画家といえば、先年九十才で亡くなった鷹山宇一の名を逸するわけにはいきません。鷹山宇一は1908年、七戸町生まれ。旧制青森中学を経て、川端画学校、日本美術学校に学ぶ。二科会を中心に活動し、戦前は前衛美術の旗手たちの1人として、シュルレアリスムの版画を制作、戦後は油彩を主にし、二科会の重鎮として活躍しました。
この他に、県出身作家では、棟方志功や鷹山宇一とともに青光画社を結成し、青森の洋画の基礎をきづいた松木満史、女流画家として、帝展などで活躍した橋本花、県外の作家では津軽に旅し、瞽女などを描いた斎藤真一の作品などを所蔵しています。
また国際的に活躍している弘前市出身の奈良美智や、八戸市出身の豊島弘尚の作品をまとまった形でコレクションしています。さらに戦後フランスで活躍し、アンフォルメルの旗手として名を馳せた今井俊満の作品約100点をご本人から寄贈で収蔵しています。

工芸

青森県を代表する陶芸家の一人に高橋一智がいます。彼は京都の河井寛次郎のもとで修業したのち、弘前に窯を築き、弘前の土や石を用いて作陶をおこないました。県では高橋の作品のほか、彼の師である河井寛次郎をはじめ、民芸運動を推進した陶芸家浜田庄司、バーナード・リーチ等の作品もあわせて約200点を収蔵しています。これら民芸の作家達はまた、棟方志功とも深い交流をもち、棟方の制作活動に大きな影響を及ぼしました。
平成7年度には京都出身の陶芸家近藤悠三の作品94件(150点)を受贈しました。近藤は京都市立陶磁器試験場付属伝習所に入り、浜田庄司、河井寛次郎らの知遇を得るとともに、浜田の紹介で陶芸家富本憲吉に師事します。富本から、表層的な技巧に陥ることなく表現としての陶芸作品を制作することを学んだことにより、確かな轆轤(ろくろ)の技術と染付という伝統的な技法に立脚しながらも、独自の作品世界を伸び伸びと、かつ果敢に表現し、近代陶芸の代表的作家としての地位を確立しました。
このほか、青森県出身の金属工芸作家小林尚みん(外字:王+民)の彫金による作品も収蔵しています。彼も伝統的技術を大切にしながら、一方で素材や技法に工夫を加え、独自の表現を追求し続けた作家でした。
青森県ではまた、津軽塗、こぎん刺、南部菱刺、蔓(つる)細工などの伝統工芸が現在まで受け継がれ制作されています。将来の美術館ではアーティスト・イン・レジデンスやワークショップなどの活動を通して、このような伝統工芸と国内外の作家や参加者を結びながら、ジャンルをこえた新しい表現の可能性を拓いていきたいと考えています。

版画

青森県からは個性豊かな版画家たちが生まれており、学校をはじめ版画の制作が盛んで、版画への関心の高い土地柄です。地元の人々に親しみ深い郷土ゆかりの作家を核にしながら、技法や材質の様々な、版画のもつ豊かな創造の可能性を実感できるコレクションを目指しています。
現在、収蔵作家は30数人。作家の資料なども含めて約1000点を収蔵しています。主な作家を挙げてみます。
溢れる創造力で世界に飛び出した棟方志功。志功が初期に傾倒した川上澄生や平塚運一。飄々とした人柄が作品にも現れている下沢木鉢郎。創作版画の指導者恩地孝四郎と、その身近にあって様々な作家の生き様を見すえ、多彩な作品を残した関野凖一郎。今純三は日本における初期の本格的な銅版画家の一人で、身近な題材を誠実に版に刻む一方、青森における版画の発展の基礎を築いた偉大な教育者でもありました。関野と中学時代から版画同人誌を作り、優れた画才を示した根市良三。卓越した色彩と造形感覚で戦後国際的に注目された高木志朗。独創的な心象世界を創造した清宮質文。関野が今純三の教えを生かしてはじめた銅版画研究所に集った、浜口陽三などの銅版画家たち。「版芸術」など、各地の作家たちの作品発表、交流の舞台となった版画誌。
ピカソの銅版画『女の頭部、横顔』(1905年)の第一ステート(現在世界で一点しか確認されていない)や、和紙に摺られた摺りの調子がすばらしいレンブラントの銅版画『説教するキリスト』(1652)をはじめ、マティスの『ジャズ』(1947年)など、海外の優れた版画作品の収集にも力を入れています。
版画は国内外の優れたオリジナル作品に身近で接する機会を提供し、創作、鑑賞両面において、文化メディアとして重要な役割を果してきました。いつでも美術館に来て版画芸術の精粋を味わい、生き生きとした刺激をうけてもらいたいと思っています。

彫刻・立体

彫刻作品では、野辺地町出身で、深い精神性をたたえたキリスト教主題のブロンズ作品を制作した小坂圭二、帝展、文展等で活躍し、特に木彫にすぐれた作品を残している三国慶一といった郷土の作家の作品を収集しています。
また、従来の彫刻の枠組みに収まらない既存のオブジェを組み合わせた立体作品や、インスタレーションとして空間の中で構成されるような作品としては、斎藤義重、工藤哲巳、奈良美智といった青森出身の作家の作品に加え、秋山裕徳太子や吉野辰海といった60年代から活躍している作家たちの作品を収蔵しています。
21世紀を迎えた現在、芸術の表現手段やテーマは多様化の一途をたどっています。美術館はこうした新しい動向に敏感に対応し、平面作品やブロンズ、木彫などの伝統的な彫刻のみならず、インスタレーションをはじめとする様々な表現手段を用いた優れた美術作品を調査し、収集していきたいと考えています。

水彩・素描

洋画でも油彩画やアクリルではなく、紙に水彩を用いて描かれた作品や、鉛筆やペンなどによる素描・ドローイングの作品も数多く収蔵しています。
これらの作品の中には、板柳町出身でのちにロンドンにわたり、生涯を終えた水彩画家松山忠三の作品のように作品として完成したものだけでなく、阿部合成のスケッチブックや素描のように、作品の構想を練ったり、人物や風景をスケッチしたりといったものも含まれます。これらは作品が成立していく過程での作家の思考や構想の方法などを伝える重要な資料でもあります。
また、成田亨の怪獣や宇宙人などの自筆デザイン画は、特撮番組のセットや着ぐるみのために描かれたものですが、それ自身すぐれた作品としての実質をもっていますし、奈良美智のノートの断片などに描かれたドローイングは、彼の作品世界の重要な一部分として独自の魅力を放っています。