アート・ボランティア開花宣言

変わる〈美術館ボランティア〉 −「奈良美智展」以前・以後−

高橋しげみ(学芸員)

昨年の夏に弘前市の吉井酒造煉瓦倉庫を舞台に開催された「奈良美智展弘前」は五百人を超えるボランティアの活躍で大きな話題をよんだ。この展覧会は運営それ自体、さまざまな職種のボランティアで構成された実行委員会によって行われていた。メンバーには、展覧会の仕掛け人だった当課の立木祥一郎学芸員と数名の大学教授を除けば、酒造倉庫のオーナーや地元の青年会議所のメンバー、弁護士、企業の経営者など普段は美術と直接関わりのない職業に携わる人々が多く含まれていた。
私も途中から実行委員に加わったのだが、初めてこの委員会のミーティングに出席した時、強く印象に残ったことがある。それは不動産会社を営むメンバーの一人が「このたびは『奈良美智展』で、いろいろとお世話になります。」と私に声をかけてきたことだった。展覧会を主催する側として、彼の口から自然に発せられたのこの言葉を聞くまで、なぜか私は彼がこの展覧会を開催する当事者であるということを実感できずにいた。美術の展覧会というのは美術館や画廊など、いわゆるアート業界に携わる人々が主催するもので、それ以外の人々は、部外者という立場でしかサポートできない、という思いがどこかにあったからだ。展覧会を主催する側としての自覚と責任感に裏打ちされた彼のさりげない一言は、ボランティアに対する私の偏狭な考え方を打ち砕いた。
展覧会の準備段階から終了までの間に、ボランティアのみで運営するがゆえのさまざまな問題が浮上した。会場の管理は誰がするか、作品の監視はどのようにするか、など。だが、こうした困難を乗り越える時、最後によりどころとなったのは、ボランティアめいめいの当事者意識とそれに伴った行動力であったように思う。つまり、自分はこの展覧会を実現する側の立場にあるのだという自覚と、その展覧会を少しでもよいものにするために自らが働きかけるという力だ。結局「奈良美智展弘前」は人口約十八万人の街にして約六万人という驚異的な入場者及びイベント参加者数を記録し、大盛況のうちに幕を閉じるのだが、もしこうした個々のボランティアの当事者意識や行動力がなかったら、この展覧会は成功どころか、実現にも至らなかっただろう。
美術館がボランティアを積極的に取り入れるということは、今では決して珍しいことではない。しかし、これまでのいわゆる〈美術館ボランティア〉の多くは、美術館のお手伝い的な役割に徹するか、ボランティアという形で美術館のサービスを享受するといった、専ら美術館に従属した位置づけをなされてきたようだ。
「奈良美智展弘前」を体験した今、何かもっと違った〈美術館ボランティア〉があるような気がしている。それは必ずしも館の中に、館の活動と直結した形で在るのではなく、館の外に在りながらも館と同列に位置し、同じ方向を目指して歩んでいる、言ってみれば館の友軍のような存在だ。そして学芸員もボランティアもその両組織の間を自由に行き交い、そこでの交流から何かを生み出していく。これから建てられる美術館とボランティアにはそうした関係がふさわしいのではないだろうか。



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