アートが作るネットワークとは? ― 「キッズ・アートワールドあおもり2002」が残したもの

「こどもの時間」が結ぶもの

板倉容子(学芸員)

それは〈キッズ・アートワールドあおもり2002〉(以下〈キッズ〉と略す)が開催される二ヶ月以上も前、参加アーティストの一人とワークショップの構想を練っていた時のことだった。彼がおこなうワークショップの最終日、こどもたちに自分が作った作品の説明発表をしてもらおうという話になった時、彼が心配そうに、こんなことを呟いた。「しかし、こどもたちの中には、みんなの前でうまく喋れなくて、黙って困っちゃう子とかいるんじゃないかな。自分がまさにそうだったからねえ。みんなの前で喋るなんて、とんでもないことだったよ」。彼の言い方は、うまく喋れないこどもに対する思いやりというよりはむしろ、深い共感というべきニュアンスを帯びていて、それが妙に面白かった。
〈キッズ〉がはじまり、ほかのアーティストのワークショップを見ている時、彼の言葉を思い出す瞬間が何度かあった。アーティストが、こどもたち一人一人の小さな声に熱心に耳を傾けながら、彼らが制作した作品一点一点について丁寧に感想を話しているのを聞いたときに。あるいは、自分の納得のいく作品に仕上げるため、他のこどもたちよりも作業がかなり遅れてしまっているたった一人のこどものために、ワークショップの時間が終わった後もずっと付き添っているアーティストの姿を目にしたときに。
自分だけの時間(ペース)を大切にしながら生きていくということは、私たちが生きている世界の中で、いつも許されているわけではない。他人に迷惑をかけず、皆と同じペースで、効率良くやっていかなければならない世界があるのも事実だ。しかし、今回の〈キッズ〉では、同じ表現者として、こどもたちの時間(ペース)を何よりも尊重し、それぞれの表現の現れ方に共感を持って接するアーティストの姿勢こそが、こどもたちとアーティストとの結びつきを深めていったように思われた。
ところで、今年の〈キッズ〉は初めて青森市を離れ、三戸町、田子町、南部町と共同で開催したのだが、三つの町のスタッフと接していて一番印象深かったのは、彼らが自分のこどもに対するように町のこどもたちに接しているということであった。そこには、幼い頃から一人一人の成長を温かく見守ってきたのであろう時間の積み重ねが感じられた。だからこそ、こどもたちとアーティストの結びつきは自然に、町のスタッフとアーティストとの結びつきへと広がっていったように思う。
一人一人のこどもを尊重しようとするアーティスト―それは取りも直さず、一人一人の人間の表現を尊重しようとする態度に他ならないと思うのだが―、素直にアーティストと接しながら、楽しくも真剣に自分の表現に取り組むこどもたち、そして、その関係の中に大切な何かを見出すことができる町の人達の視線。もしも〈キッズ・アートワールドあおもり2002〉を通してネットワークが生まれたのなら、この結びつきこそが全てのはじまりであったと思うのだ。



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