美術館のコレクション ― 工藤哲巳展をめぐって

コレクションについて

黒岩恭介(青森県美術館整備推進監)

「科学的、歴史的、あるいは芸術的価値を持った作品を収集し、保管し、研究し、展示し、教育的解説を行うための建物、場所、あるいは施設」。これはミュージアム(博物館・美術館)の一般的定義である。つまりミュージアムの基本は作品収集ということになる。美術館の場合でいうなら、芸術的価値をもった作品の収集である。まず収集ありき。芸術的価値の高いコレクションを形成することは、即その美術館の格を形成することにつながる。コレクションは美術館の命ということがよく言われる所以である。

問題は具体的にどのような作品を収集するかということである。美術館の理想をいえば、古今東西、歴史の流れに沿ってあらゆる時代あらゆる地域の、芸術的価値を持った美術作品を収集することだろう。現実にルーブル美術館やメトロポリタン美術館、ワシントン・ナショナル・ギャラリーなどはその方向を進んでいる。しかし圧倒的多数の美術館はもっと専門化して収集を行っているのが現実である。地域、あるいは時代を限定して、たとえば、近代美術館、現代美術館、一人のアーティストに捧げられた個人美術館、アジア美術館などが、設立者のコンセプトに従って建設されている。

さて青森県立美術館(仮称)のコレクションはどうなっているのか。美術館建設基本計画のなかに、「(1)近・現代の青森県出身作家およびゆかりのある作家の優れた美術作品並びに関連資料。(2)青森県以外の近・現代の美術状況に対応するために必要な優れた美術作品並びに関連資料。(3)今に生きる県民の心の原点に関わり、未来に資する関連資料」を収集すると謳われている。ここで明確になっているのは近代および現代という時代の指定である。しかし地域的な限定はない。すなわち青森県を中心とした日本および海外の美術動向をターゲットとするものと考える。またここでキーワードと思われるのは、美術作品という言葉を修飾している「優れた」という形容詞である。

同時代を見渡せば、夥しい数の美術作品が、日々生産されていることがわかる。たとえば銀座の画廊では年間を通してさまざまな個展やグループ展がひっきりなしに開催されているし、上野の美術館では美術団体の展覧会が目白押しである。その中でコレクションするにふさわしい「優れた」美術作品とはいったいどういうものなのか。少なくとも「優れた」とみなされるのは、趣味判断によるのではない。美術はひとつの歴史である。その歴史は「優れた」美術作品の連なりによって形成されている。したがって「優れた」美術作品とは、時代を真に代表する作品のことである。様式的にであれ、内容においてであれ、「優れた」美術作品はそれが生まれた時代あるいは来るべき時代を的確に表現しているのである。しかしそれは同時代にあっては見えにくい場合もある。時代にもてはやされた作品が、その時代を真に代表しているとは限らない。それはいやというほど美術の歴史の中に見ることができる悲喜劇的な現象である。だから美術の歴史は絶えず見直される。見直しの作業を繰り返し行うのは、いまや美術館の大きな役割でもある。オールド・マスターとかモダン・マスターとか称されるアーティストは、そういった歴史の見直し作業に耐えてきた芸術家のことである。

新しい世紀を迎えた今、二十世紀の美術を見直す展覧会が数多く開催されるだろうし、青森県でも開催していくことになる。その中から真に二十世紀を代表する作品が浮かび上がってくるはずだ。そんな「優れた」作品を、コレクションを始めたばかりの青森県はこれからも地道に収集していこうと思う。たとえば今回の「アートツアー・イン青森」で取り上げた工藤哲巳のコレクションを考えてみよう。彼は青森県出身でしかも現代美術の一角を担ってきたアーティストである。現代美術を収集する美術館なら必ず収集の対象となる作家だ。様式的観点から見れば、六十年代以降主流を形成したオブジェという表現形式を採用し、われわれの日常的な意識に衝撃を与える制作を行っている。芸術とは意識の覚醒であることの、それは端的な例である。また彼の取り組んだテーマのひとつである環境問題は、二十一世紀を迎えてますます大きくなっていく抜き差しならぬ大問題である。工藤哲巳はそれを芸術家の直観で社会に警鐘を鳴らす形でリアルに提示したが、その重要性は今後ますます大きくなっていくはずだ。そんな作家の生涯にわたる仕事を展望できるコレクションを形成することは青森県の責務でもあり特権でもある。それに応える形で、青森県は、工藤哲巳の作品を水彩や素描を含めて、今現在七十点あまり収集しているのである。



特集
(仮称) 青森県立美術館設計の経過報告 断面図から構想された建築デザイン

キッズ・アート・ワールドあおもり2000−終わる世紀とはじまる未来−

美術館の思想、着想、そして形−基本設計をめぐって−
アートとこどもの関係−キッズ・アートワールド2001あおもり報告
美術館のコレクション − 工藤哲巳展をめぐって
アートが作るネットワークとは? -「キッズ・アートワールドあおもり2002」が残したもの
アート・ボランティア開花宣言
アートプロジェクト こども−おとなコネクション!!
美術館のシンボルマーク決定!