アートとこどもの関係−キッズ・アートワールド2001あおもり報告

こどもたちに向けて

黒岩恭介(青森県美術館整備推進監)

青森県の美術館はこどもたちと真剣に関わろうとしている。それは美術館で一般的に行われている美術の教育普及活動を超えたものを目指している。
こどもたちを取り巻く社会的状況は、今、決して好ましいものとは言えない。これはおとなたちの責任である。未来は今のこどもたちが築くものである。今おとなたちがこどもたちにどのように向き合うべきなのか。明るい未来を望むなら、このことは困難であるけれども、真剣に考えなければいけない問題であろう。未来を良くするには、おとなが真剣にこどもたちと向き合い、伝えるべきことは伝え、こどもたちの疑問に、ごまかすことなく応えることが、今ほど求められている時代はないように思える。命の可能性が充満しているこどもたちに、経験を経た分それだけ死に近いおとなたちが、今何かを働きかけなければいけない状況なのである。それはおとなたちの責務でもある。
以上のような危機的状況を踏まえて、青森県の美術館は、こどもたちを対象としたプログラムを常設することによって、こどもたちと真剣に向き合いたい。それはアートの自由で多様な体験の仕方をテーマに掲げた鑑賞教室であったり、あるいはこどもたちの創作意欲を掻きたてる、アーティストとの共同制作であったり、またいわゆるアートを超えた新しい体験をこどもたちに可能にするプログラムであったりするだろう。具体的なプログラムは多種多様で、創意工夫に富んださまざまな展開が、学芸員やアーティストによって考案されるだろうし、またこどもたちの動きを含めて、その活動自体を作品とするようなアーティストも当然出てくるだろう。しかし、ここで最も大切なことは何かといえば、こどもたちがアートのある環境で一定時間を過ごすこと自体にある。その過ごし方は何もアートを目的としたものである必要は必ずしもない。その空間で、こどもたちが何か他の遊びをしてもいいし、絵本を読んでいてもいい。何をしてもいいのだけれど、そこにアートがあることが大切なのである。意識的、無意識的を問わず、こどもたちの魂にアートが染み込んでいく、それが最も重要なことである。
こどもたちの無垢な意識にアートが大きな影響を与えることは確かである。しかしそれは即効性を持たない。偉大なアートと触れ合ったからといって、次の日から生き方が激変する、というような力はアートにはおそらくない。またアートとの出会いが、具体的にどのような影響を子どもたちに与えるのかということも不確定である。しかしそれまでの生の中で経験したことのないような、新しい、すぐには整理のつかないアート体験をしたこどもたちが、成長の過程で、あるいは何かを選択する過程で、ふと気付いてみると、幼年期のアート体験が深く魂に刻印されていて、その遠い、しかし着実な影響力が徐々に発揮されて、今の自分があるのだということが、突然理解される。アートの力とはおそらくそのような種のものだろう。アートはわれわれの健全な意識を背後から支え、保証するものとして、その存在理由を持つ、ということだけは確かだと言えよう。
〈キッズ・アート・ワールドあおもり〉のように、特定のこどもたちを募集してこういったプログラムを実施することもあれば、そうではなく、親子連れでたまたま来館したこどもたちを対象とすることもあるだろう。しかしいつ来ても、何らかのこども向けプログラムが用意されている、そのような美術館をわれわれは目指している。つまりここでは、美術館はこどもたちの遊び場として機能する。ということは場合によっては、こどもたちが主体的に遊びを考えることだって可能である。そのように柔軟な美術館でありたい。将来の美術館を担い、作っていくのは、他ならぬ今のこどもたちだからである。



特集
(仮称) 青森県立美術館設計の経過報告 断面図から構想された建築デザイン

キッズ・アート・ワールドあおもり2000−終わる世紀とはじまる未来−

美術館の思想、着想、そして形−基本設計をめぐって−
アートとこどもの関係−キッズ・アートワールド2001あおもり報告
美術館のコレクション − 工藤哲巳展をめぐって
アートが作るネットワークとは? -「キッズ・アートワールドあおもり2002」が残したもの
アート・ボランティア開花宣言
アートプロジェクト こども−おとなコネクション!!
美術館のシンボルマーク決定!