断面図から構想された建築デザイン

立木祥一郎(青森県美術館学芸主査)

これまで検討を重ねてきた美術館建築の概要について御紹介します。本県美術館は地下2階、地上2階。展覧会への来館者は、まず、地下2階の展示室へと誘われます。ここは、縄文遺跡の発掘現場をイメージし、土を素材に用いたタタキのフロアーのある地下空間です。このフロアーのほぼ中心には20m×20mの高さ16mの大空間が広がりシャガールによるアレコ3点が常設展示されます。観客はこのアレコ展示空間から企画展示や常設展示の空間へと巡っていきます。地下1階には常設展示室があります。ここで美術館の収集した美術作品を鑑賞することができます。1階には作品を保管するための収蔵庫やレクチャーホールがあります。このホールのステージの背景の壁が開くとそのままアレコを舞台の背景に見ることができるような設計になっています。2階には、研究室や事務室があります。
建物は、この展示室、収蔵庫といった美術館の基本的な機能を備えた本館部分から外部通路と呼ばれる公園の広場から山側へと抜けることができる通路を挟んで、さまざまなアート関係の書籍を閲覧したり、コンピュータによる情報を検索することのできる美術図書室や、作品制作等を行うアトリエなどを備えたメディアセンター・創作部門と、県民の創造展示の舞台となるコミュニティギャラリー部門が東、南にそれぞれ伸びています。
また、この美術館では、アーティスト・イン・レジデンスという芸術家等が館に滞在して青森の風土の中で制作活動や展示活動を行うことができるように計画されているのも大きな特徴のひとつといえるでしょう。
みなさんは建築の図面といって連想するのは、たとえば不動産の店先にある3LDKのマンションの間取り図とか、美術館なら、入り口はここ、展示室はここで、レストランはこちらといった館内案内のような平面プランだろうと思います。私たちは建築を考えるとき無意識のうちに上から見た平面の形や図面で考えている。同様に建築の多くは、平面図をとりたてて重視してきました。特にポストモダンとよばれる現代建築は上からの平面形や外形から、内部の部屋割りや機能が導き出される傾向が強かったといえましょう。
その点、青森県の美術館は、斬新なアイデアによって設計されています。設計者である青木淳氏は、この青森県の美術館を考えるにあたり、まず図1のような断面のスケッチから建物を考えたのです。

[図1]
画像:図1建築断面スケッチ

美術館が三内丸山縄文遺跡に近接するということを踏まえ、遺跡の発掘現場のトレンチ (壕) をイメージした土の大きな凹型と、その上に、ずれてかぶさる逆凸型の建築。作品の展示空間は、この凸と凹の隙間の空間です。青森の美術館を設計するに当たっての最も根本的な原理がこの断面図にみることができるのです。
青木氏は、あるひとつの条件を設定し、状況に対応しながら設計する手法を [決定ルールのオーバードライブ] と呼んでいます。青森の場合なら、決定ルールは、凸と凹という建築原理。このことは、この青森の美術館の設計に当たっては、従来の建築のように平面形の意匠という既成概念に縛られていないことを意味しています。建築の外形は、周りの景観 (ランドスケープ) や、建築に求められる必要な内部機能から決定されていくのです。凸と凹というルールを建築家が規定する以外は、意匠から外形が求められず、建築をめぐる様々な関係性から建築外形というものが浮かび上がってくるという考えです。
また美術館設計案は建物自体も縄文ループという公園側の計画する中を歩けるチューブ状の立体的な園路の高さ以上にしないなど、自然に溶け込ませた低層の構造で計画されています。コンペでもっとも評価されたのもまさにこうした点であり、タタキを用いたトレンチのギャラリーと、そこにかぶさる建築というコンセプトや、ファサードを持たずループ上に建築が出ないという原則などに従い、公園のデザインを来館者の利便性などの観点から美術館の計画との調和をはかったり、美術館としての施設機能を検討していく過程で、的確にその外形が変化していきます。
図2のようにアトリエ棟やコミュニティギャラリー棟が展示・収蔵部門に近接、一体化していくとともに、ランドスケープから求められた弧を描く外形のデザインはより単純化していきました。
青木氏の建築学会作品受賞作 [潟博物館] や新潟の豪雪地域のくらしの研究施設である [雪のまち未来館] などに入り、その内部を歩きながら移動していくと、視線の移動に従い、内部空間の光が時に劇的に、時に微妙に移り変わり、うつろう空間の美に不思議な感動を覚えます。青木淳の建築作品の魅力のひとつは、人が、空間の連続したつながりのなかを移動していくことにあるのだと思います。
青森県の美術館も、来館者は、縄文の植生を再現した公園から、地下に包み込まれるように土のトレンチの中の落ち着いた空間へと降りてゆきます。そして、その中に突然ぽっかりと広がる巨大なアレコの展示空間に出会います。建築構造の中に形成される大小様々なホワイトキューブといわれるシャープな白い方形の空間や、さまざまな表情を見せるトレンチの土の空間の陰影を感じながら館内を巡り、そこに展示される美術作品の数々を堪能できるでしょう。
この美術館の展示空間で人々が経験するアートの空間は、たぶんこれまでの美術館の展示室でアートを鑑賞するのとは全く異なる感動を与えるかもしれません。青森県の美術館設計は、凸凹の決定ルールによって青森という土地を読み解くことで、青森、縄文という土地の特性が刻んだ空間を発掘し、建築という形に置き換えようとしているように思えます。どこにでもある均質な展示空間だけでは得られない、どこにもない、 [ここ] だけの空間。そこに展示され、そこから生まれるアートは、まさに青森という土地にこだわりながら、 [外] へと飛び出し国際性を獲得した棟方志功や工藤哲巳らのアーティストたちの創造の原点を [ここ] 青森へと取り戻す試みにほかならないのです。

[図2]
画像:図2 建築外形デザイン


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