2月11日のよしなしごと

三好徹(学芸員)

まだ遠い先、50歳になった自分が、何処で、何をしているのか。1950年生まれの私にとって、物心ついた頃より、西暦2000年という年はずっと意識の中にありました。京都に生まれ育った私が、50歳の今、青森県で、美術館の建設準備に携わっているなどとは、もちろん想像すらできなかったことです。たかだか50年間という私の人生を振り返ってみても、様々なことがよみがえり、時の移ろいを改めて感じさせられます。

美術館の仕事をしていると、この時間というものを強く意識させられることがあります。現在・過去・未来、歴史の流れのなかで、美術作品は、ともすれば失われ、忘れ去られてしまう運命にあります。青森県が収集した美術作品の中に、マルク・シャガールがアメリカ亡命直後、1942年にメキシコで制作した、巨大なバレエの背景幕「アレコ」が3点あります。初演後、欧米各地で上演された後、数回展覧会等で公開された以外、日の目を見ぬまま、時間の闇に埋もれていました。それが、幸いにも50数年後、ここ青森県の美術館に収蔵され、展示公開されることになったのです。開館後、「アレコ」が公開されることにより、シャガールのこと、この作品のこと、またその時代の美術状況など、今まで閉ざされていた部分が、世界の研究者たちの手によって明らかにされていくことになるでしょう。

《50年後の美術史のために》作品を残すということ、美術館の重要な仕事だと考えます。ただ、残すということにも、色々あろうかと思います。実際に過去の遺産としての美術作品を収集、保管することも大切なことですが、さらに、これからの美術館として、積極的に考えていきたいのは、美術館という場で、美術家のみならず、県民、来館者ら多くの人々が、時代の美術状況を記憶にとどめ、関わることにより、まさに《時代の目撃者》として、作品を残していくという状況を創り出すことです。

青森出身の現代美術作家工藤哲巳らが、戦後1960年代に「反芸術」を標榜し、芸術に対する意識を大きく変えた時代がありましたが、一般的にはなかなか理解を得ることが難しく、作品の多くも失われてしまいました。幾世代を経て、当時の美術状況を検証する試みがなされていますが、モノ不足、資料不足の感は否めません。
青森県の美術館は、ただ単に、作品を収集、保管、展示する美術館ではなく、構想している創造機能、メディア機能を併せ活かすことにより、美術館の内外で、県民、来館者ら可能な限り多くの人々と共に「今」の時代を共有していきたいと考えています。

50回目の誕生日を迎えたこの日、「中ハシ克シゲ展−あなたの時代−」を見に、大阪に向かう機中、よしなしごとを思い巡らしておりましたら、ふと、青森出身の作家寺山修司の「さらば箱舟」の台詞が、頭をよぎりました。
百年たてば、その意味わかる!
百年たったら、帰っておいで!


学芸員エッセイ